200年に一度の大きな時代の転換期
「風の時代」という言葉の背景には、中世のペルシャ、イスラムに遡る天文学と占星術の伝統があります。
かつて占星術がまだ科学と分かれていなかった頃、惑星の周期的な運行は地上の歴史、特に王朝や時代の変遷とシンクロしていると考えられていました。ギリシャでは日食や月食が重視されましたが、アラブ世界ではそれに加えて木星と土星が接近する周期が大きな意味をもつと考えられるようになりました。
木星の太陽系での公転周期はおよそ12年、土星は約30年。望遠鏡のない時代には、土星が最も周期の長い惑星でした。ですから古い占星術では最長でも30年単位でしか時代の変化を追いかけることができなかったのです。しかしここで大きな工夫がなされます。
2つ以上の惑星の周期を組み合わせるのです。木星と土星はおよそ20年に一度接近します。これを「大会合(グレート・コンジャンクション)」といい、世代交代を象徴すると考えられました。
そしてこの木星と土星の接近は、およそ200年の間、同じエレメントの星座のグループで起こり続けます。占星術では12星座を火(牡羊座・獅子座・射手座)、地(牡牛座・乙女座・山羊座)、風(双子座・天秤座・水瓶座)、水(蟹座・蠍座・魚座)のグループに分類していますが、この火・地・風・水が支配する時代が、それぞれ約200年にわたって続くということです。
木星と土星の接近が異なるエレメントの星座へ移動することを「ミューテーション」と呼び、これが4つのエレメントをすべて通過する大きなサイクルでの変化を「グレート・ミューテーション」と呼びます。これは時代の転換や支配的な宗教の変化、預言者の到来を暗示するとされてきました。
このような大会合の理論は、中世アラブの最大の天文学者にして占星術家であるアブー・マーシャルによって理論化されて、詳細に論じられました。
この考え方は、その後も大きな影響力をもち、高校世界史の教科書でも大きく取り上げられる中世イスラム最大の歴史家といわれるイブン・ハルドゥーンの有名な『歴史序説』においても、かなりのページ数を割いて論じられているのです。
2020年末に起こった木星と土星の接近は、「風の星座」である水瓶座で起こりました。そして今後、この大会合はおよそ200年にわたって、水瓶座、天秤座、双子座という風の星座で起こり続け、今風の言葉でいえば「風の時代」となると考えられるのです。