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岸惠子さん特別取材「人生、凜として生きる」。5月にまつわる物語

2022.05.27

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コロナ禍でもあり、私たち母娘は3年も会えていない


時は流れ、人の心も移ろい、記憶が薄れ、やがて、すべては忘却の彼方へ消え去る。

若い頃の私や、周りの人たちはどんな表情で、どんな言い回しをして言葉を紡いでいたのか、よくは覚えていない。

私が生きた時代はすぐそこなのに、新しい時代の血気盛んな風景の中では、輪郭さえ朧な幻。「昔」という過去になってしまった。


TV画面などで今風の体が痙攣するような飛び跳ねる踊りや、オーバーな叫びや表情を見て、《いいなあ》と感心したり、《チョット! 騒々しいヨ》と思ったりする。

時代は凄まじく変わったのだ!

新しい時代の中で、私は今現在89歳。ドン詰りの最晩年。ところが、おめでたいことに自分の老いを感じたことがなかった。去年の12月1日までは……。その翌日日本へ来るはずだった娘から、悲痛な電話を受けた時から私はへんに不安になった。

「飛行機に乗る寸前に搭乗を拒否された! 3時間前、日本は外国人来日を禁じたの。朝の便だったらよかったのに、と係りの人が気の毒がってくれた」

このパンデミックの中で、情報が錯綜するのは仕方がない。けれど、私のたった一人の娘に、離婚時に私が父親ではなく母親だったので日本国籍をくれなかった日本の法律が災いして、娘は外国人! 松野官房長官が、「外国人の来日を拒否する」と宣言したのを私は聴きそびれていた。それがパリに届いたのが3時間前だったのか……。

コロナ禍の混乱を思えばそれは仕方がない。けれど、2年続いたコロナの前に「黄色いヴェスト運動」の騒動があり、私たち母娘は3年間も会えていない。

フランス国籍しか持たない娘の来日のため、家族ヴィザを取得するのにまる1ヶ月。パリ駐在の日本大使館や日本の厚生労働省、国土交通省への連絡。私の戸籍謄本、住民票。それらを記載したフランスの「家族手帳」があるのに、娘は生まれた病院の出生証明を請求され、取得に10日もかかった。長い心労と電話連絡で得たそれらの書類は、有効期限がたったの3ヶ月! オミクロン他の変異株がまだ隆盛な3月はダメ。5月になったらという希望は叶うかもしれないけれど、煩雑なヴィザ申請をもう1度やり直さなければならない。

日本国のやたらとバカ丁寧で縦割り型方式は横の連携がなくてやたらと時間がかかる。係りの人は皆懇切丁寧で感じが良かった。けれど、その無駄と思える煩雑さに疲れ果てた。

“ 3年間も会えていない娘が
5月には日本へ来たいと言う。
またあの書類集めをやるの?
やれやれと思うが娘には会いたい ”


[特別取材]岸 惠子 人生、凜として生きる

階段でポーズをとりながら、「まだヒールのある靴も大丈夫よ。サイズさえ合っていればね」とにっこり。実は靴のサイズが22センチと小さいため、なかなか気に入るものに出合えないのだそう。カーディガン ドレス(ベルト付き) ネックレス/すべてブルネロ クチネリ(ブルネロ クチネリ ジャパン)
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