一番の悩みどころ。それは震災を経験していないこと
出演オファーを受けた理由はもう一つ。「普通の女性の役をやることが少ないので。ふだんは妖怪とか、そういうものが多いですから(笑)」と完成披露試写会の舞台挨拶で語り、観客を笑わせました。
「千恵子と決定的に違うのは、震災に遭っていないということ。私は経験していないので、役作りにどう反映できるかなというところが一番の悩みどころでした。でも、事実と向き合って前向きに生きていく明るい女性だったので、できるかしらと思って挑戦させていただきました」
撮影中は、民宿に宿泊していた夏木さん。民宿の方に「この5年間の話をいろいろ伺いました」と言い、それが演技にとても役立ったそうです。そして、一番の悩みどころだったという経験の有無も、「カメラが回ったら、どこか腹をくくらなければならないところがあるんですよ。でも、自分の妄想ではあるんですけど、千恵子の履歴書を作って撮影に入っているので、それに基づいて(千恵子役を)生きていきました」。
千恵子を「演じるというより、生きていたかった」と夏木さん。映画の中には、千恵子以外の何者でもない千恵子が確かに生きていた。