〔特集〕今秋、感動の体験旅へ 京都・奈良 日本が世界に誇る2大古都、京都と奈良。世界文化遺産にも登録されている、この2つの都市の文化的価値と魅力を、料亭、庭園、建築などに焦点を当てて紐解いていきます。さらに美味処、話題のスポットの情報もお届けします。前回の記事はこちら>>
かつて聖徳太子の別荘があったとされるこの土地に、聖武天皇の詔を受け、行基菩薩が法相(ほっそう)宗の寺として西芳寺(当時は西方寺)を開山したのは731年のこと。鎌倉時代初期には法然上人により浄土宗に改宗、その後兵乱により荒廃した寺に招かれ、臨済宗の禅寺として再興したのが、高僧であり、作庭の名手でもあった夢窓国師(むそうこくし)でした。
当初は現在の姿とは異なる白砂青松の庭で、後に金閣を造営する室町三代将軍足利義満、銀閣を造営する八代将軍義政も、この庭を手本にするべく参禅したと伝えられています。
その後、応仁の乱や、度重なる河川の氾濫による土砂の流入で、寺は荒廃。谷の湧水と適度な湿度が生育に適していたためか、土砂の上に苔が長い年月をかけて繁茂しました。歴代の住持によるたゆまぬ手入れによってその苔は大切に守られ、やがて「苔寺」と呼ばれて多くの参拝者を集めるようになります。1994年にはユネスコの世界文化遺産「古都京都の文化財」に登録されました。
かつて1日1万人を超える観光客が訪れていたという西芳寺では、車の排気ガスや騒音、交通渋滞などの“観光公害”が発生。そのため1977年に往復ハガキによる事前申し込みが必要な少人数参拝制としました。当時としては先駆的な取り組みで、そのおかげで今も寺院本来の静かな雰囲気が守られています。
初秋の一日、この庭を訪れたのは、華道の家に生まれ育った池坊専宗さん。この日、まず本堂で参拝後、「延命十句観音経」を写経しました。「仏さまの言葉を筆で一文字一文字、丁寧に意味を汲み取りながら書くことで、心が静かになり、無心の状態になった気がします」と池坊さん。
「文字を書き進めるうちに、心が落ち着いてきた、あるいは集中が途切れてきたなど、自身の心の波を繊細に感じ取ることができます」と西芳寺執事長の藤田隆浩さん。
その後、藤田さんの案内で苔の庭を巡ります。「前回来たときよりも苔の表情がよく見えるように感じます。仏教と結びつきのある池坊の花は、緑をとても大切にしていて、光の差し込み方や風の通り道を考えて花を生けます。この庭にはさまざまな緑があって、その表情に生命を感じます」との池坊さんの言葉に、「庭の表情は訪れるたびに変わります。ぜひとも“行きつけのお寺”として繰り返しお参りください」と答える藤田さん。
西芳寺は、今秋から会員組織「Saihokai」を発足させ、この庭を後世に受け継ぐために、人とお寺の新たな関係作りを始めます。
池坊専宗さん(左)(いけのぼう・せんしゅう)
藤田隆浩さん(右)(ふじた・りゅうこう)
西芳寺(さいほうじ)
京都市西京区松尾神ケ谷町56
TEL:075(391)3631
参拝は事前申し込み制
往復ハガキの場合は参拝冥加料1名3000円以上、公式HPからの場合は1名4000円日時や申し込み方法など詳細はhttps://saihoji-kokedera.com
2023年11月1日参拝分より一部改定あり
※次回に続く
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※施設・店舗は臨時休業の場合があります。事前にご確認のうえお出かけください。撮影/本誌・坂本正行 『家庭画報』2023年10月号掲載。この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。