これぞジュエリーの真髄 第11回(02) ティアラの世界 有川一三氏が主宰する「アルビオンアート」の歴史的な芸術品の数々を宝石史研究家の山口 遼さんの解説でご紹介するジュエリー連載。第11回は、ティアラの変遷について紐解きます。
第11回(01)はこちら>> 連載一覧はこちら>> 時代とともに移り変わるティアラのデザイン
頭部を飾るジュエリーは、ティアラだけではありません。王や皇帝が頭の真上に載せるクラウンやコロネット、羽根飾りをつけたエイグレットやティアラの幅を縮めたバンドー、細い紐にデザインをつけたフェロニエールなど、バリエーションが豊富です。
今ではもう作られない奇抜なものに、インド伝来のデザインで、エイグレットと呼ばれるジュエリーがあります。エイグレットとは白鷺のこと。
19世紀になると多数のインドの貴族たちがロンドンにやってきます。男性は頭にターバンを巻き、その中央にブローチ状の飾りを付け、そこから大きな白鷺の羽根を立ち上げていました。これを見た英国人はそのデザインに感嘆し、羽根を宝石で作ることを考えたのです。
1.ダイヤモンドスプレー エイグレット
製作年代:1800年頃
製作国:イギリス
1のジュエリーは中央に羽根のデザインがそびえています。古いカットのダイヤモンドを7列並べたもので、とても目立ちますね。
2.[エドワーディアン]ハント&ロスケル社 作 カラーダイヤモンド エイグレット
製作年代:1910年頃
製作国:イギリス
2はブラウン色のダイヤモンドと、実物の羽根が立ち上がっています。
19世紀も末頃になると、幅のある堂々としたティアラは当時の流行に合わなく感じられたのか、幅がぐっと狭くなるティアラが登場します。これをバンドーと呼びます。
3.パールとダイヤモンドのバンドーティアラ
製作年代:1912年頃
製作国:未詳
4.[エドワーディアン]ヘネル&サンズ グリークキイとフリンジのティアラ
製作年代:1915年頃
製作国:イギリス(推定)
3は真珠とダイヤモンドだけの紐のように細いバンドー、4はグリークキイ、東洋では雷文と呼ばれる模様にフリンジを付けたもの。
5.[アールヌーヴォー]翡翠のバンドー
製作年代:19世紀末~20世紀初頭
製作国:フランス(推定)
そして5はアールヌーヴォー期の翡翠を使ったデザイン。どうでしょう、バンドーなら、今でも普通の髪飾りとして使えませんか。
ユニークな素材を使ったティアラもあります。
6.[アランソン公爵夫人 旧蔵]コーラルのティアラ
製作年代:19世紀中期
製作国:イタリア(推定)
サンゴだけのティアラ6は、これが金髪の上に載ったらとても目立つと思います。
7.[プリンスクレメンス・フォン・バイエルン 旧蔵]コーンフラワーのティアラとイヤリング
製作年代:1865年~1870年代
製作国:フランス
7はバイエルン王国の貴族伝来のコーンフラワーをデザインしたティアラ。鮮明なブルーのエナメルが見事で、イヤリングもセットになっています。
8.[オクターヴ・パラン 作]パールとゴールドのティアラ兼コーム
製作年代:1860年頃
製作国:フランス
もう一つ、8の珍しく明るい金に真珠だけを使ったティアラも、細工が美しく、私の好みです。
こうしたティアラという絢爛たるジュエリーを使った王侯貴族たちは、第一次世界大戦が終わる頃になると次第に姿を消していきます。それに伴い、ティアラが新しく作られることはほとんどなくなります。
そうした時代に、最後の執念ともいうべき傑作を作ったのがカルティエです。
9.[アールデコ カルティエ 作]ダイヤモンドティアラ
製作年代:1930年頃
製作国:イギリス
9は1930年前後の作品で、古代エジプトの城門をデザインしたもの。城門の部分は取り外してブローチやブレスレットになります。
現代では新作はほとんどないティアラこそ、このコレクションのオーナーである有川さんが最も愛したジュエリーなのです。
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