これぞジュエリーの真髄 第10回(02) ダイヤモンドの世界 有川一三氏が主宰する「アルビオンアート」の歴史的な芸術品の数々を、宝石史研究家の山口 遼さんの解説でご紹介するジュエリー連載。第10回は、ダイヤモンドの歴史と輝きの変遷について紐解きます。
第10回(01)はこちら>> 連載一覧はこちら>> ブリリアントカット以後の進化する輝き
「ダイヤモンドは光る」、「光り輝くダイヤモンド」などという言葉があります。確かにダイヤモンドを動かしているとキラリと光ったり、虹のような煌めきが見えます。カットによって違いはありますが、これがダイヤモンドの最大の魅力です。
専門的には全反射、全屈折といい、あらゆる角度からダイヤモンドに入った光線が、屈折、反射を繰り返してダイヤモンドの正面から出てくる、それが光るように見えるということです。どのようにカットすれば最高の輝きを得られるのかがわかったのは、つい最近の1910年代のことです。
15〜16世紀頃に欧州でダイヤモンドの研磨が始まったときから、石の下の部分に倒立三角形のような部分を残すと輝きが増すようだ、ということが経験的にわかってきます。また、人々が欲したのも、夜会の蠟燭の光に輝く宝石でした。
こうして今までのカット面の反射の輝きではなく、石の中から出る強い輝きが求められていきます。16〜17世紀頃の欧州のどこかで、ダイヤモンドを上下に分けて研磨する、今日ブリリアントカットと呼ばれるカットの原形が登場します。
どの都市で誰が発明したのかはわかりません。おそらく発明者としての名誉よりも、密かに金儲けをすることに重点を置いたためだと思われます。
初期のブリリアントカットは、ダイヤモンドの外形が丸くない、いってみれば好き勝手な外形で、楕円もあれば歪んだ円形も四角に近いものもある。共通しているのは、下の部分のカットだけ。これは円形にするとカラット数が減るのを嫌ったためです。
1.ダイヤモンド クラスターイヤリング
製作年代:1760年頃
製作国:イギリス(推定)
18世紀末に作られた1のイヤリングは、大小のブリリアントカットを集めてクラスター状にしていますが、どれも円形ではありません。
2.マリア・テレジアのダイヤモンド クラスターイヤリング
製作年代:1760年頃
製作国:オーストリア
2はオーストリアの皇后マリア・テレジアのために作られたもの。カットはブリリアントですが、外形はやはりいいかげんといいますか、丸くない。
3.[モレル 作 ポートランド公爵夫人 旧蔵]ザ・ポートランド・ダイヤモンズ
製作年代:1850年頃
製作国:フランス
19世紀半ばになると、3の英国の貴族のダイヤモンドだけのパリュールのように、カットが少しずつ洗練されてきます。
20世紀初めになりますと、高名なデザイナーたちの作品にもブリリアントカットが出てきます。
4.[ファベルジェ 作]ルビーとダイヤモンドのブローチ
製作年代:1909年頃
製作国:ロシア
4はファベルジェ作のブローチ。ダイヤモンドはドロップ形ですが、完全なるカットです。
5.[ルネ・ラリック 作]ダイヤモンドブローチ
製作年代:1900年頃
製作国:フランス
ラリックも珍しくダイヤモンドだけで端正なブローチ5を作っています。彼が完全にジュエリー作りの工程を学んでいることがよくわかる作品で、非常に珍しい。
6.[アールデコ]エメラルドを配したダイヤモンド・リヴィエール
製作年代:1925年頃
製作国:未詳
南アフリカでダイヤモンドが出るようになってから、大粒のダイヤモンドを大量に使うことが可能になりました。その典型がフランス語で川を意味するリヴィエールと呼ばれるネックレス6です。
やがて真円の外形を持ったラウンドブリリアントが登場します。
7.[ベルエポック]ダイヤモンドとエメラルドのクラスターリング
製作年代:1915年頃
製作国:フランス
8.[ルネ・ボワヴァン 作]アールデコ ダイヤモンドリング
製作年代:1930年頃
製作国:フランス
[7]のベルエポック期のエメラルドで取り巻いた指輪、[8]のルネ・ボワヴァンが作った典型的なアールデコ様式の指輪はともに、完璧なラウンドカットの素晴らしさがよくわかります。
最後に新しい試みのものを一つ。
9.[ブシュロン 作]バタフライ・ブローチ
製作年代:1892年頃
製作国:フランス
9はブシュロンが作った蝶々のブローチで、平たいダイヤモンドの裏面に彫りを入れて、蝶々の羽を表現しています。
人間とはいろいろと考えて工夫を凝らすもので、なんともユニークではないでしょうか。
※記事の写真は、下のフォトギャラリーからもご覧いただけます。