クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第189回 ラヴェル『夜のガスパール』
イラスト/なめきみほ
スイスの精巧な時計職人とたたえられた名匠の技
今日3月7日は、フランス近代を代表する作曲家モーリス・ラヴェル(1875~1937)の誕生日です。
フランスとスペインの国境地帯にまたがるバスク地方出身のラヴェルは、バスク人である母親の影響を大きく受けて育ちます。その才能はパリ音楽院在学中から注目を集め、ストラヴィンスキーが「スイスの精巧な時計職人」とたたえた精緻さと洗練を併せ持った音楽によって楽壇を席巻。
さらには、優れたオーケストレーションを駆使してムソルグスキーのピアノ組曲『展覧会の絵』をオーケストラ用に編曲。音楽史上屈指の人気曲に仕立て上げたことも見逃せません。
多くのピアノ作品を手がけたラヴェルの代表作の1つが、フランスの詩人、ルイ・ベルトランの詩集を題材とした『夜のガスパール』です。「オンディーヌ」「スカルボ」「絞首台」の3篇の詩に寄せた音楽からは、同時代の作曲家ドビュッシー(1862~1918)同様、情景描写にこだわりを持ったラヴェルのすばらしい感性が伝わってくるようです。
初演は1909年1月9日。スペインの名手リカルド・ビニェスによって行われています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。