クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第238回 スクリャービン『焔に向かって』
イラスト/なめきみほ
鉄のカーテンの向こう側に存在した伝説のピアニスト
今日4月25日は、旧ソ連のピアニスト、ウラディーミル・ソフロニツキー(1901~61)の誕生日(ユリウス暦)です。
ロシア帝国のサンクトペテルブルクに生まれたソフロニツキーは、ペテログラード音楽院において、スクリャービン(1872~1915)の娘エレナと出会い、その後結婚。さらには、旧ソ連を代表する作曲家、ショスタコーヴィチや、伝説の女性ピアニスト、マリア・ユーディナとも同窓であったことが特筆されます。
西側で演奏することがなく、録音も出回ることのなかったソフロニツキーの存在は、長くベールに包まれていましたが、旧ソ連内での評価は高く、当時最高のピアニストと謳われたリヒテルやギレリスが絶賛していたことも語り草です。
そのレパートリーは、バッハやショパンおよび、近現代のロシアの作曲家たちの作品までと幅広く、特に岳父であるスクリャービンの演奏においては、圧倒的な存在感を示しています。スクリャービンが残した最後のピアノ曲の1つである詩曲『焔に向かって』などの録音は、今もスクリャービン解釈の最高峰に数えられる名演です。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。