クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第246回 ベートーヴェン 『ピアノソナタ第17番“テンペスト”』
イラスト/なめきみほ
理解したければ、シェイクスピアの『テンペスト』を読め
今日、5月3日は、イングランドの劇作家ウィリアム・シェイクスピア(1564~1616)の命日です。
役者で詩人でもあったシェイクスピアは、人間のあらゆる感情を表現することに長けており、存命中からその人気は非常に高く、没後は数多くの戯曲や詩作によって世界中に知られる存在となったのです。作品は各国で出版され、演劇だけでなく、オペラや歌曲、管弦楽曲などの題材として用いられるなど、影響力の大きさは文学の中でも最大級です。
題材になったわけではありませんが、ベートーヴェンの『ピアノソナタ第17番』が“テンペスト”と呼ばれるようになった理由もその1つ。弟子のシントラーがこの作品の解釈についてベートーヴェンに尋ねたところ、「シェイクスピアの『テンペスト』を読みなさい」と告げられたという逸話によるものです。
最近の研究によって、シントラーの発言はかなり怪しいとされていますが、いかにもベートーヴェンが口にしそうな言葉であるところが絶妙です。シェイクスピアの影響力や恐るべし。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。