ハイクレア城に暮らす ドラマ『ダウントン・アビー』で一躍脚光を浴びた英国ハイクレア城。その城に今も住む第8代カナーヴォン伯爵家の人びとのライフスタイルを、英国フリーライター山形優子フットマンが取材。貴族の暮らしに息づく英国文化をご紹介します。水曜更新。
(今までの連載はこちら) カナーヴォン伯爵一家と馬
城の景観は、馬上からの視点でデザイン
ランドスケープ・ガーデンとして有名なハイクレア城の雄大な景観は、実は「馬上からの視点でデザインされたもの」だそうです。
この地形デザインを請け負ったのは、英国が誇る18世紀の造園家ケイパビリティ・ブラウン。ハイクレアはもちろん、ヘンリー8世所縁の城ハンプトン・コートの庭の一部など、英国中に170か所に及ぶ名園を造った偉人です。
ケイパビリティ・ブラウンの植えたレバノン杉が城と見事に調和。ブラウンは56本のレバノン杉の苗を、巨木に育った姿を想像しながら、ハイクレアの要所要所に植林。現在の、天に向かって大きく広げられた深緑の傘のような樹を見るたび、彼の先見の明に感服せざるを得ません。城へ向かう馬車の窓から眺めたドラマチックな光景に客人は、さぞ圧倒されたことでしょう。
もちろん、伯爵夫妻もこの景観を馬上から楽しみます。今回は、英国貴族にとって欠かすことのできない動物、ハイクレア城の馬たちの物語をご紹介しましょう。
レディ・フィオーナの愛馬はアラブ馬の「フィーブ」
お2人の持ち馬は6頭です。2015年に購入したフィーブという名のアラブ馬は、なかなか気性が荒く、近くに住む調馬師に手なずけてもらったそうです。
やっと慣れた様子のアラブ馬「フィーブ」。愛犬のスクビーやアルフィーとも仲良し。フィーブは今もって金具製の轡を受け付けない「きかん坊」。調馬師は、金具の代わりに、リンゴの味がするプラスチックの轡をつけるという秘策に打って出たほどです!
そのおかげでレディ・フィオーナもフィーブの背に揺られながら、先人の手による美の結晶であるランドスケープ・ガーデンをやっと堪能できるようになったそう。
レディ・フィオーナと馬
ハイクレアの甘い牧草のせいでしょうか、城の馬数は増えています。
2018年1月24日には、タルコアという名の馬が産気づき、伯爵夫妻は犬のベラやクレメンタインの時と同様、夜を徹して出産を見守りました。ボニーと名づけられた子馬は、やがて長い細い足を見せびらかしながら母馬の周りをぴょんぴょんと駆け回るようになりました。
美しい仔馬ボニーが誕生。さらに翌2月にも別の親馬から仔馬が誕生。子供の時から妹たちと一緒に乗馬に慣れ親しんだレディ・フィオーナは、馬の気持ちの変化を見逃しません。「繊細だから、よく見て理解してやらなければ」と言います。
動物たちの世話を通して多くを学び、思いやりを身につけられた方なのです。