今月の著者:木下龍也さん
今また、短歌ブームが訪れているといわれています。その牽引役の一人である歌人の木下龍也さんの、注目の新刊が発売されました。
現代短歌を身近に楽しむための入り口となる話題の一冊
本書は、月刊文芸誌『群像』の人気連載「群像短歌部」の第1回から第12回までをまとめたもの。
テーマを決めて短歌を募集し、木下さんが選んだ歌に選評を加えるところまではよくあるスタイルですが、この選評がとても丁寧なのが、本書の第一の特徴です。採用した短歌をときほぐし、どう味わい、どう評価したのか。何が「すごい」のかが細かく解説されます。
「投稿された短歌を選ぶ基準は、自分の心が“揺れた”かどうか。その“揺れ”がどんなものだったのかが伝わるような解説を心がけました。なかには一読しただけでは理解できない歌に出合うこともありますが、わからないということは、私自身の中にないものが歌われているということ。そこに向き合う価値があり、解説を書くのも楽しかったですね」
第二の特徴は、同じテーマで木下さんも歌を作り、最終形にいたるまでの経緯が書かれていること。
「いわば“企業秘密”のようなものですよね(笑)。一般的な歌集にはその最終形しか載っていないから、どこか魔法のように思えて、自分には作れないのではないかと尻込みしてしまう人が多いように感じています。ですが、どのような出発点から最終形にいたったのかという推敲過程をお見せすることで、結構悩んで作っているんだなと知ってもらって、短歌を身近に感じてもらいたい。自分にも作れるかもと思ってもらいたい」
審判とプレイヤー、どのように折り合いをつけていますか?
「切り替えがなかなか難しいのですが、投稿者と競い合うつもりで楽しみながらやっています」
短歌に縁がなかった人でも、本書を読み終えると、何か詠んでみたくなること請け合いです。
「インターネットや動画配信など、自分の外側に楽しいものが溢れている現代では、それらを見るだけで日々を過ごしてしまいがちです。一方、短歌は、自分の内側にある情景を歌にするもの。短歌を作りながらでなければ気づかないことに気づいたり、考えや感情を整理して、そこから本当に大事なことだけを取り出したりすることもできます。自分の内側を見つめ直すことは、自分自身を大切にすることなのです」

とはいえ、自分の内面を見つめ続けるのは大変なことです。
「心と頭だけ使っていると、やはり疲弊してしまいます。今はお休みしていますが、私はボクシングジムに通うなどして体も動かすようにしていますね」
短歌を詠むために、初心者は何から始めればよいでしょうか。
「日常的に短歌と向き合う時間を作ることはもちろん、たとえばご友人とのティータイムに歌会をしたり、吟行と称して旅行に出かけたりするのもいいですね。実際にどこかに出かけて目にしたものを素材にすると、より多角的に内面を見つめることができるようになります。短歌に触れるのは教科書以来、という方も多いと思いますが、この機会にぜひ、親しんでいただければと思います」
『すごい短歌部』木下龍也 著 講談社 「夏」、「車窓」といった定番的なテーマから、「気になるスキマ」、「ふわふわ」など、ちょっと不思議なものまで、12のテーマに対して投稿された短歌を収録。選評に加えて、著者自身の作と、最終形にいたるまでの模索の様子が詳細に描かれる。著者が選者とプレイヤーの両方を務めた、短歌好き&初心者のための入門書。
木下龍也(きのした・たつや)1988年山口県生まれ。歌人。『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房)、依頼を受け個人に販売した短歌をまとめた『あなたのための短歌集』、谷川俊太郎、岡野大嗣との共著『今日は誰にも愛されたかった』、『天才による凡人のための短歌教室』(すべてナナロク社)など。
「#本・雑誌」の記事をもっと見る>>