連載「季節の香りを聞く」3月〈志野袋〉藤
雉子香(きぎすこう)
春の野にあさる雉子(きぎす)の妻恋(つまごい)に
己(おの)があたりを人に知れつつ万葉集──大伴家持─
選・文=蜂谷宗苾(志野流香道 第21世家元継承者)若い頃、奈良県大宇陀の山中に在る禅寺に身を置きました。四季を通し座禅と作務の日々でしたが、ある朝、門前を箒(ほうき)で掃いていたところ、背後にただならぬ視線を感じました。
振り返ると、そこには真っ赤な顔をした雄の雉(きじ)が。暫(しば)しの睨み合いの後、まさか走って追い掛けられるとは…。
雉は日本の国鳥であり、古くは、きぎすと呼ばれました。雉子香(きぎすこう)は、伽羅(きゃら)などの香りの異なる香木を四種使用し、歌の一節を上手く使いながら聞き当てていきます。
雉も鳴かずば撃たれまい。居所を猟師に知られてしまうリスクあっても、妻が恋しいと鳴く雄雉の想いは、縄張りに入った私を追い払うほど深いのです。
~志野流組香 四十組-四番~

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