〔特集〕現代の暮らしに合う お雛様のモダンスタイリング術 コンパクトに飾れて、イテリアに美しく映える雛人形が人気を集めています。衣裳の彩りから想起したスタイリングから、お洒落な見立てのアイディアまで。今様の楽しみ方を、横瀬多美保さんがご提案します。
アートを愛でるように雛人形と過ごす幸せ時間
「一点一点、匠の技と芸術的な彩色が施されたお雛様は、アートさながら。お気に入りの絵やオブジェを飾るように、インテリアピースとして空間を生かした楽しみ方があります」。
そう語るのは、家庭画報本誌でもおなじみのインテリアスタイリスト、横瀬多美保さん。40代でご自身のために雛人形を買い替えて以来、デコレーションにも変化が生まれたといいます。
「お雛様は横顔や後ろ姿までも、うっとりするほど美しく作られています。時には360度から眺めたいという思いから、壁際や棚に置くだけではなく、テーブルに置いて四方見を楽しむスタイルも新鮮です」。
家族や友人が集う場を彩る8通りのアイディアを、洗練されたスタイリングとともにご覧ください。
【アイディア1】
テーブルセンターに置いて、お茶菓子とともに四方から愛でる

森 翠風(すいふう)
典雅な彩りをまとった福々しい立雛柾目の通った上質な木曽檜を用い、日本画用の水干(すいひ)絵の具で意匠化された吉祥文様を描いた森 翠風さんの雛。ふっくらと上品な佇まいや、京の雅を映す配色に作家のセンスと工芸の技が光ります。毛氈(もうせん)の代わりに敷いたのは、イギリス製のシャドーヘリンボーン地のテーブルクロス。屛風の代わりに花の抽象画を壁にあしらい、キャンドルの雪洞(ぼんぼり)や、コンポートに盛り合わせたスイーツを雛あられに見立て、家族が集うテーブル飾りを演出しました。立雛(高さ:男雛18センチ、女雛15センチ)82万5000円/銀座一穂堂
【アイディア2】
シャンパンを雪洞(ぼんぼり)に見立て、花屛風で春の喜びを物語る
中川政七商店 × アトリエシムラ
草木染めの衣裳が醸すそこはかとない色彩美
衣裳を手がけたのは、人間国宝で染織家の志村ふくみさんの美学を継承する「アトリエシムラ」。男雛の衣は繊細な蒼の階調が春の空や水辺を思わせ、女雛の衣は優美な淡紅色が花の便りを運ぶよう。襲(かさね)の色に至るまで、約15種類に及ぶ植物の生命が幽玄な色彩を奏でます。「草木染めの世界観を大切に、ナチュラルな野花を寄せた花屛風を設えました」(横瀬さん)。お雛様を囲んだアペリティフのひととき、シャンパンを注いだ左右のグラスがまるで雪洞のように輝き、節句の祝いに華やぎを添えてくれます。「草木染め衣裳着雛飾り」(高さ:男雛・女雛各11センチ)49万5000円/中川政七商店
【アイディア3】
複数のプレートで壁かけのアレンジを楽しむ
WEDGWOOD(ウェッジウッド)
繊細なレリーフ装飾が描くエレガントな一枚清楚で可憐な夫婦雛を立体的なエンボス技法で表現したプレート。横瀬さんの提案は、こちらを他のイヤープレートと組み合わせて壁にかけた雛飾りです。プレートの下には伸びやかな春の花を、高低差をつけたフラワーベースでアレンジ。お気に入りのコーナーを節句の喜びで満たしました。「ジャスパー」 雛ドールプレート(直径18.5センチ)2万7500円 同イヤープレート2025(直径17センチ)1万6500円 「ホワイトフォリア」ベース左から(高さ30センチ)1万6500円、(高さ13センチ)7700円、(高さ23センチ)1万3200円/すべてウェッジウッド
【アイディア4】
唐紙和紙を屛風にキャンドルを雪洞に
柿沼人形
奥ゆかしい古典美をまとった木目込雛正倉院文様を復元した織物を衣裳に用いることで、落ち着いた品格を宿す、卓越した江戸木目込人形。「雛飾りで必要なことは、敷物や背景をどうアレンジするか」と語る横瀬さんのおすすめは、好みの唐紙で誂えるオリジナルの屛風。さらに、フローティングキャンドルを浮かべたグラスを雪洞に見立て、下皿には蘭の花で彩りを添えました。雲母で施した唐紙の文様がキャンドルの仄かな灯りで浮かび上がり、オリエンタルなムードが漂う雛飾りの完成です。立雛(高さ:男雛27.5センチ、女雛19センチ)11万円/柿沼人形
【アイディア5】
モノトーンの空間にモダンな掛け軸を利かせて
幸一光(こういっこう)
ストイックな色に江戸の美学を読み解く“地味色” を “粋な色” として見出し、江戸時代に流行した「四十八茶百鼠」。その遊び心を取り入れて、柄や織り方の違う白い裂地(きれじ)だけで引き算の美を表現した松崎幸一光さん作による木目込の雛人形。「あえて面相も描かず彫刻のようなシルエットを追求した人形を際立たせるように、現代的な掛け軸と合わせて清らかな空間に」(横瀬さん)。取り合せる装花も、色を差さずに凜とした枝ものでシンプルにまとめることもポイントです。「Simple Modern hina 01」(高さ:男雛16センチ、女雛13センチ) 16万3020円/幸一光(松崎人形)
【アイディア6】
貝殻タイプのミニ雛はティーセットと合わせて
HEREND(ヘレンド)
名窯生まれのチャーミングなテーブル飾り貝合わせの王朝遊びに倣った蛤をモチーフに、ミニチュアのお雛様がちょこんと座る愛らしい陶器の「貝雛」。蓋の内側にはブランドを代表する “ヴィクトリア・ブーケ” が濃淡の筆致で描かれ、立ててセットすれば艶めく屛風へと早変わり。「雛小筺」とともにシルバーのトレイにまとめて飾り、大人のティータイムを楽しみます。「貝雛」(開けた状態約:縦10×横10×高さ10センチ)12万1000円 「雛小筺」ミルフルール(手前)3万3000円 同パセリ・ピンク(奥)3万3000円/すべてヘレンド(クラブ ヘレンド ジャパン本店)
【アイディア7】
モダンアートと合わせてギャラリー風に展示
T.MOTOI(T.モトイ)
王朝絵巻の世界を映すオブジェのような木彫雛男女のきもの姿を直線的に表した、王朝の絵巻物から想起したモダンなデザイン。北海道産シナ材の優しい風合いを感じるよう、木地を透かして弁柄色をまとわせ、金彩の笏(しゃく)と扇をひと匙の華やぎに添えました。横瀬さんは、セットになっている敷板(縦27×横60センチ)をアイアンの脚にダイレクトに置き、背景に色を利かせたモダンアートを組み合わせるという新鮮なスタイリングを提案。まるでギャラリーのようで、意外性のある雛の空間に仕上がりました。「HINANINGYO MHI-06」(高さ:男雛9.7センチ、女雛8.6センチ)12万1000円/T.MOTOI
【アイディア8】
お好みのテーブルライナーを毛氈風に敷いてみる
桜井こけし
きめ細かな木地が生む気品に満ちたこけし雛江戸末期からの伝統を継承する「桜井こけし」。丸太で仕入れた東北の木材を1年以上かけて乾燥させ、木地挽き、描彩とすべての工程を丁寧な手作業で一つずつ行っています。微笑んでいるような一筆目の表情や丸みのある姿も、愛らしく心惹かれて。小さき雛のセットは、スペースをとらずにリビングの棚の一段に収まるのも嬉しい点です。「ヨーロッパのリボンから誂えたテーブルライナーを毛氈代わりに敷き、蘭を据えた苔玉を置くだけで、和洋折衷の空間が演出できます」(横瀬さん)。「ひいな 貴心松花〈座雛〉道具セット」(高さ約:男雛10センチ、女雛9センチ)13万2000円/桜井こけし
(次回に続く。)