日本の伝統工芸「香川漆芸」の作家5名が、デンマークの名門家具ブランド「フリッツ・ハンセン」の椅子の加飾に挑戦。「セブンチェア」「グランプリチェア」「アリンコチェア」という3種類の名作と、香川の三技法「蒟醤(きんま)」「存清(ぞんせい)」「彫漆(ちょうしつ)」が融合した“漆モダン”な椅子のお披露目です。
月夜にすすきの影法師(シルエット)[impression]藪内江美(蒟醤)
月夜にすすきの影法師(シルエット)[impression] 藪内江美(蒟醤)
「自然の中の光と色彩をテーマに彫り、赤や緑など6色の色漆と錫粉、アルミ粉をランダムに埋めて研ぎ出しました。『蒟醤』の自由なタッチや質感を見ていただけたら」と藪内さん。「蒟醤」は漆を塗り重ねて文様を彫り、その溝に色漆を埋めたのち、表面を研いで文様を表現する技法。セブンチェア「impression」110万円/フリッツ・ハンセン(フリッツ・ハンセン 東京)
右上/オリーブは風にゆれて[平和の実り] 辻 孝史(たかし)(存清) 左下/煌めく青のグラデーション[瀬戸の海]松原弘明(彫漆)
右上/オリーブは風にゆれて[平和の実り]辻 孝史(たかし)(存清)うるみ色(赤みがかった茶色)のマットな漆に、聖書に平和の象徴として登場するオリーブを描いた。使用技法は「存清」で、漆を塗り重ねた上に色漆で文様を描き、細部に線彫りを施す。「風にゆれるオリーブの残像を表すため、輪郭を少しずらして線彫りし、金を埋めました」と辻さん。セブンチェア「平和の実り」110万円/フリッツ・ハンセン(フリッツ・ハンセン 東京)
左下/煌めく青のグラデーション[瀬戸の海]松原弘明(彫漆)モチーフは地元・高松の海。松原さん曰く「瀬戸内海は穏やかに見えますが、島が多いため、流れが複雑で速い。日差しや風の影響で刻々と変化するさまを彫りと色漆の濃淡で表現しました」。使用技法は「彫漆」で、色漆を数十回塗り重ね、その色漆の層を彫り込んで文様を浮き上がらせる。セブンチェア「瀬戸の海」110万円/フリッツ・ハンセン(フリッツ・ハンセン 東京)
縞の織物で椅子を結わく[堆漆間道結(ついしつかんどうゆい)]石原雅員(まさかず)(彫漆)
縞の織物で椅子を結わく[堆漆間道結(ついしつかんどうゆい)] 石原雅員(まさかず)(彫漆)
作品名の「堆漆」は彫漆の技法の一つで、「間道」は16~17世紀に渡来した縞織物。「色漆を120回塗り重ねた後に小口をスライスし、2枚を横に接着して作った帯状の板『堆漆板』を間道に見立て、椅子全体を結わえてみました」と石原さん。ポイントは堆漆板の“結び目”で、表は三つ葉文、裏(写真下)は結び文。木製の脚部も艶あり、艶なし2種類の白漆が塗られている凝りよう。グランプリチェア「堆漆間道結」110万円/フリッツ・ハンセン(フリッツ・ハンセン 東京)
黄金の光と虹輪の競演[光]山下亨人(こうじん)(蒟醤)
黄金の光と虹輪の競演[光] 山下亨人(こうじん)(蒟醤)
「後光が差している様子を表現しました」と話す山下さんが、蒟醤と蒔絵の技法を駆使して完成させたのは、黒漆に金色と虹色の装飾が映え、エネルギーに満ちた作品。正面から見ると、中心の円に吸い込まれそうな心持ちに。蒟醤で仕上げた座面の側面も虹色で、背面は朱漆。アリンコチェア「光」110万円/フリッツ・ハンセン(フリッツ・ハンセン 東京)