村雨辰剛の二十四節気暮らし庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。
啓蟄〜村雨流の「寒干し」

簞笥に仕舞っていたきものを取り出す村雨さん。
三寒四温を繰り返しながら、ようやく春の気配が感じられるようになりました。3月5日は二十四節気の「啓蟄(けいちつ)」。啓蟄の「啓」は開くという意味、「蟄」は土の中に隠れて閉じこもることを意味します。冬籠りしていた虫たちが目覚める季節ということです。都心に暮らしているとなかなか土に触れる機会は少ないかもしれませんが、僕の職業のひとつは庭師。土が目覚めるという感覚に共感すると同時に、こうして新しい言葉に出会うたびに、季節を繊細に捉える日本人の感性に感動しています。
畳紙からきものを出す仕草も手慣れたもの。
啓蟄の意味を調べているときに知ったのは、「虫干しは啓蟄まで」という言葉でした。この「虫干し」という言葉も初めて知ったのですが、その歴史は平安時代の宮中行事にまで遡るそうです。湿気の多い日本では、きものはもちろん、掛け軸や書物などに風を通すことで虫食いやかびなどの点検をしたとか。物を大切にして長く受け継いでいく考え方にも、改めて感銘をうけました。
その虫干しは年に3回も行い、時季によって呼び方も変えていたと知りました。梅雨が過ぎ7月〜8月の土用の頃に行うものを「土用干し」、爽やかな風が吹く10〜11月に行うものを「虫干し」、1月〜2月の空気が乾燥する季節に行うのを「寒干し」と表現します。
僕の家ではこんな風に虫干しをしてみました。

飛翔する夫婦鶴と松の螺鈿細工が美しい村雨家の衣桁。
寒干しは虫が目覚める啓蟄の前までに終わらせるということで、「虫干しは啓蟄まで」という慣用表現が生まれたようです。この日は、初めての「寒干し」なるものに挑戦。昔の家では日の差さない部屋に竿をさげてきものを吊るしたそうですが、さすがに僕の自宅では難しいので、インテリアのアクセントとして骨董市で購入した屏風式の衣桁を用いることに。汗ばむ袖つけの部分や帯まわりにしっかり風が抜けるように、工夫してかけてみました。いつもはそばにきて戯れる愛猫のメちゃんも、きものが大切なものだと感じたらしく、この時ばかりは虫干しが終わるまで遠くから見守ってくれました。
隣の部屋からじっと見守るメちゃん。
村雨さんが見つけた二十四節気

「冬がれた大地から顔を覗かせた植物の息吹を感じるだけで気持ちが明るくなります」と村雨さん。左はカタバミ、右は早春を告げる多年草のバイカオウレン。清楚な姿に魅せられるとか。
村雨辰剛(むらさめ たつまさ)1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。