〔特集〕歴史と希望の物語を伝える「学び舎の桜」 毎年春になると、子どもたちの成長を祝福するかのように開花する学び舎の桜。ひときわ美しく咲き誇る花は、長年木々が大切に守られてきた証です。学び舎の桜は、いつ誰がどのような想いで植えたのでしょうか。5校の桜の歴史と物語に迫ります。
・
特集「学び舎の桜」の記事一覧はこちら>>>
国際基督教大学(ICU)【東京・三鷹】
学生たちの卒業を祝うロバート・エスキルドセン学務副学長(右から3番目)。「この桜並木は平和を願うマクリーン牧師らからの贈り物。平和な世だからこそ、愛でられます」。
桜の並木道に刻まれた平和への誓い
国際基督教大学(ICU)の正門から礼拝堂まで600メートル続くマクリーン通りは毎春、壮麗な桜のトンネルになります。名前の由来は米国ヴァージニア州リッチモンドの教会に所属していたジョン・マクリーン牧師。原爆が日本にもたらした甚大な被害に胸を痛め、終戦の翌年、「日本が復興するための寄付を」と北米教会連盟協議会を通じて米国全土に呼びかけた人物です。
米国ヴァージニア州リッチモンドのギンターパーク長老派教会に所属していたジョン・マクリーン牧師(1891~1980年)。写真提供/ICUアーカイブズ
その活動は宗教を問わず日米数多くの人々の協力を得て実を結び、平和を築く人間を育む「リベラルアーツ・カレッジ」ICUの創立へつながりました。
1949年6月、国際基督教大学の名称や骨格を決定した「御殿場会議」の記念写真。写真提供/ICUアーカイブズ
構内には平和の象徴として桜が贈られ、その数なんと1000本!
3年生の佐藤彩人さんは「当時のアメリカでは『この前まで敵国だった日本のために寄付をするなんてとんでもない』と反発した人も多かったでしょう。この出来事に思いを巡らせるとき、ICU創立に込められた平和への信念が『本物』であることに感動します」と話します。
3万人を超える学生たちがくぐってきた桜のトンネル。同窓生たちからの寄付で維持管理され、近年は少しずつ植え替えも進んでいる。一直線に延びる長い道は、かつて航空機メーカーの土地だった歴史もあり、学生たちは今も昔も「滑走路」と呼ぶ。©吉富祐一
一方、一期生として入学した金澤正剛(まさかた)ICU名誉教授は、桜の苗木を植えた日を鮮明に覚えています。
「夏前のことです。『木が届いたので、集合』といわれて外へ出て、4、5人ずつで穴を掘り、植えました。苗木は若く、高さは2メートルほどでしたね。桜並木の成長は、ICUが国際的な大学に発展してきた道のりと重なります」。
ソメイヨシノ1000本は未舗装だったマクリーン通りのほか、大学構内のあちこちに植樹された。ICU名誉教授の金澤さんは「今や立派な大木ですが、植えたときは、幹を持ったら親指と中指がくっつくほど細かった」と懐かしむ。写真提供/ICUアーカイブズ
大学献学(一期生の入学)70周年を迎えた一昨年、ICU常務理事の富岡徹郎さんはマクリーン牧師が所属していたリッチモンドの教会を訪ね、一つの発見をしました。
「私は長年、牧師がなぜ日本のためにそこまで尽力してくださったのか、不思議に思っていたのですが、教会で一枚の写真を見て腑に落ちました。それは神学博士として著名な岡村民子さんという方が戦前、唯一の日本人学生として教会に隣接する神学校に留学していたときの写真でした。マクリーン牧師は、岡村さんとのご縁から日本に関心を寄せてくださったのではないでしょうか」。
教授陣は出身大学のガウンで卒業式に出るのが慣例。そのため色やデザインがさまざま。
時空を超えた物語を秘めた桜並木は今、日本人学生だけでなく、世界各国からの留学生や教員の目をも楽しませています。
卒業式が行われた大学礼拝堂の前で、ご両親とともに晴れやかな笑顔を見せる4年生(右から2番目)とその学友。
(次回へ続く。
この特集の一覧>>)