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前回まで)理想の里山を作るため、農家になる決意をした今森さん。前回に引き続き、地元大津で過ごした幼少期の思い出を語ります。
今森光彦 環境農家への道
第8回 “環境農家”という新しい言葉
(文/今森光彦)
梅雨の時期には、ニゴロブナが琵琶湖から小川を伝って田んぼに遡上してきた。その数は、何百や何千匹にもなった。田んぼの土手に咲くノアザミには、ウラギンヒョウモンなどの蝶がたくさん訪れた。道沿いには、エノキの大木が並んでいて、ヒオドシチョウやゴマダラチョウといった里山を代表する蝶たちが舞っていた。
ノアザミにやってきたツマグロヒョウモン。初夏の土手に咲く花は、蝶たちにとって大切な蜜源となる。また、近所に飼うための野鳥を生け捕る人がいて、その人の仕事を手伝いながら、雑木林に通ったりもした。今から思うと、なんとも贅沢な体験ばかりだ。私は、そこで数知れない植物や鳥や昆虫に出会うことができた。美しく個性ある生きものたちが、私たちが暮らしているすぐとなりで生きていることが、とても不思議だった。
感性の栄養
このとき得た色々な知識は、誰かに教わったわけではない。すべて自分で発見し、体験したことだ。名前や習性を知るのは、家に帰ってから本などで調べていたが、強烈に脳裏に刻まれるのは、最初の出会いの印象である。
私は、“感性の栄養”という言葉をよく使うが、誰に教えられなくても好奇心を十分満たしてくれる土地が、確実に存在した。
ひげのようなものを伸ばす独特の容姿をもつウラシマソウ。アトリエの庭にも、毎年決まったところで、花を咲かせてくれる。