現代社会、現代の家族が抱えるさまざまな課題を喜劇で描きたいという山田監督の思いで描かれたシリーズ3作目。――現場でも、自然に富子さんの感情に入っていく感じなのでしょうか?
そうですね。台詞はすべて覚えていますけど、現場に入ればこうしよう、ああしようと考えなくても感情が自然に湧いてくるので、事前の準備は何もしていないんです。普通のドラマの場合、自分の演じる役について、いろいろイメージしてつくっていきますけど、『家族はつらいよ』では“私は富子なんだ”って思い込んでいて、台詞を言っている私と富子さんが重なっているというか。長いこと役者をしていますが、こういうのは初めての経験です。
――『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』は、主婦への讃歌がテーマですが。
『家族はつらいよ2』が終わったとき、これで(映画が)終わるはずはない、と。“今度は史枝さん(夏川結衣さん)が何かやるわね”って、みんなで話していたのですが、その予想がある意味、当たったというか。映画を観て、奥さんがいなくなったら、どれだけ大変かと思う夫たちは少なくないのではないでしょうか。この作品は喜劇ではあるけれど、すごく深いものがあって、笑ってばかりはいられなくて、観た人それぞれに考えさせる大真面目な映画だと思います。
――山田監督は現場でどのように演出されるのでしょうか?
監督は現場の流れを見ながら、その場で演出を変えていかれるんです。初めの頃、黙って考え込んでしまう監督を見て、(私たちの演技に)何か気に入らないのかと心配していたのですが、倍賞千恵子さんが書かれたものを読んでいたら、『男はつらいよ』を撮り始めた頃からあることだったそうで。それを知ってほっとしましたが、役者が動くことで醸される雰囲気を見ながら変えてゆく、そのことが映画でも、とても生きている感じがします。
――恒例の家族会議は、演じていてどんな感じなのでしょうか。
やはり長いので緊張感はあります。家族会議のシーンは、舞台のようにリハーサルをすべて通しで行うんです。本番では数日がかりで少しずつ撮っていくので、気持ちをつなぐことがなかなか難しいのですが、皆さんリハーサルで感覚を掴んでいるので、緊張感を保ちつつ、スムーズに行くのだと思います。
今は、平田家のように3世代が同居している家族は少ないかもしれませんが、みんなが自分の立場をわかった上で、正直に気持ちをぶつけ合うのが家族会議で、すごく緻密に描かれていると思いながら、いつも脚本を読んでいます。
現場の雰囲気を見ながら気になったこと、思いついたことを、その場で変えていくという山田監督の演出。