周造の故郷、瀬戸内海の大崎上島で墓参りしながら、自分はここではなく友人と別の墓に入りたいと夫に告げる富子について「本当に正直な人ですよね」と吉行さん。――映画のなかで、夫の周造さんと島に墓参りに行って、一緒にお墓に入りたくないと言うシーンの台詞が印象に残りました。
最近は、夫とお墓を別にするという話もよく聞くので、そういう現実が脚本に反映されているのでしょうけど、富子さんは本当に正直な、いい人だなあと(笑)。“あたしもここに入るの? いやよ。先祖代々なんていうけど、知らない人ばっかりじゃない。死んだ後くらい自由にしたいわよ”って、言われたほうは意表を突かれてショックかもしれませんけど、世の中の妻たちにとっては納得の行く台詞じゃないかと思うんです。もちろん夫と一緒がいいという人は、それも幸せでしょうけれど。
――女性はある年齢以降も新たな友人関係を持ちますが、男性はなかなかそういう人が少ないのかもしれません。
女の人は、年を重ねるにつれて自由になって、自分の知らない世界へも好奇心とともに向かいますけど、男の人は年とともに世界がだんだん狭くなってゆくようですね。今、劇場や映画館に足を運ぶのも女性が大半ですし。
――そうやって人生を楽しむと同時に、墓参りのシーンのように女性は先のことも考えています。吉行さんご自身は、人生の締めくくりについてどんな考えをお持ちですか?
私は役者しかしていませんし、私を楽しませてくれるのはフィクションの世界しかないという人間なので、いくつになっても自分の年齢なりに演じていくことだけが望みなのね。おいしいものを食べたいとか、いい服を着たいとか、素敵な家に住みたいとか、そういう気持ちも全然ないですし。自分にフィクションの世界がなかったらどうなっていたか。小説でも読んで、妄想しているしかないのかなあと思います。
――『妻よ薔薇のように』は、次につなぐかたちで終わっています。続編はどうなると思いますか?
この次があるとしたら……庄太(妻夫木 聡さん)と憲子(蒼井 優さん)に子供が生まれて、どこに預けて仕事をするかとか。これまでも熟年離婚、孤独死など、脚本には日本の課題が反映されていますから、いくらでも話は考えられますよね。
父のエイスケさん、兄の淳之介さん、妹の理恵さんと作家一家の吉行家。吉行さん自身、多くの著書を発表している。 吉行和子/Kazuko Yoshiyuki
俳優
東京出身。女優。1957年に舞台『アンネの日記』でデビュー。主な映画出演作に『愛の亡霊』1978年、『おくりびと』2008年、『人生、いろどり』2012年、『DESTINY鎌倉ものがたり』2017年など。2018年6月8日に映画『羊と鋼の森』が公開予定。
©2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」製作委員会『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』監督/山田洋次 脚本/山田洋次、平松恵美子 出演/橋爪 功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木 聡、蒼井 優ほか
2018年 123分 日本映画 配給/松竹 5月25日(金)より全国公開
公式ホームぺージ/
http://kazoku-tsuraiyo.jp/