『ア・ラ・カルト』30 周年、デビュー35 周年記念盤として、高泉淳子&ジャジカルホット倶楽部による14年ぶりのカバーアルバム『LE HOT SWING !!』を10月3日にリリースした。VMAN-017 3000円。 ――だからこそ毎年、芝居と音楽が絶妙に融合した『ア・ラ・カルト』が出来上がるのですね。中西:実は、あっちゃん(高泉)も演出家も音楽が好きでとても詳しいので、選曲はほとんどそこで決まっていくんですよ。僕は音楽監督という肩書をもらってはいるけれど、決まっていった曲をなるほど~と思いながら楽譜に書いていくことのほうが多い(笑)。
高泉:私は学生の頃から、ちょっと異常なくらい選曲が好きだから(笑)。それに中西さんは、普通なら知っているような流行歌や海外のヒット曲を全然知らなかったりするからね。
中西:僕は、クラシックとかモダンジャズばかり聴いて育ったからね。家に初めて白黒テレビが来たのも高校生になった頃だった。だから小中学生の頃は、学校でみんなが話していることが音楽以外のことも全く理解できなくて、話が全然合わなかった(笑)。
高泉:そういえば、長野の冬季五輪の時に『ア・ラ・カルト』のメンバーでスキー競技の話をしていたら、中西さんに“今、何かやってるの?”って聞かれて、長野でオリンピックをやってるんだけどって言ったら、“えっ、長野で!?”ってものすごく驚かれて。そうか、中西さんはそういうことも知らない人なんだなって(笑)。
中西:ハハハ! そのエピソードは覚えてないけど、いかにも僕っぽい(笑)。
高泉:『ア・ラ・カルト』の台本には時事ネタも入れるんですね。特に“タカハシ”というサラリーマンのシーンには、その年に流行した言葉を入れたりする。ところが中西さんは、別のところで笑う(笑)。それが嬉しくもあって。だって、中西さんが笑えるということは、流行に関係なく、みんなが本質的なところで笑えるということだから。
――『ア・ラ・カルト』には、その“タカハシ”をはじめとするおなじみの人物が登場します。ストーリーやゲストは毎年変わりますが、最初にレストランに1人の女性がやってきて食前酒を頼み、次の前菜のシーンではちょっと風変わりなサラリーマン“タカハシ”がワインを注文。その次のメイン料理のシーンでは、ゲストを交えて男と女の話、デザートでは高齢のカップルの話が展開され、最後は食後酒で締めくくる……といった構成は、ほぼ不動。ミュージカルとも一般的な音楽劇とも違う、唯一無二のしゃれたスタイルで、生演奏や歌もちりばめられています。高泉:大学2年の時に早稲田の演劇研究会で芝居を始めた頃から、私は音楽があるものがやりたいと思っていたんです。当時は上手く説明できなかったけど、映画のように音楽がいい具合に流れてきて、登場人物の人生や、自分の人生の風景も見えてくるような、そういう“余白”があるものをつくりたかった。だから私、『ア・ラ・カルト』のいちばん最初のステージでは、舞台にいながら感動しました。自分がずっとやりたいと思っていたのはこれだったんだ!って。
中西:余白は大事だよね。人は全部説明されてわかってしまうと“なるほど”で終わるけど、逆にわからない時は、自分の今までの経験や思い出と照らしながら考えるから、イメージがすごく膨らむし、感動も増すと思う。
高泉:だから私も、色々な解釈ができる台本を書きたいといつも思っていて。観る人それぞれが、そこに自分の記憶や思いを投影できるようなものを。
中西:僕もそう。以前は音楽ですべてを表現しようとして色々足していたけど、『ア・ラ・カルト』で情報量が多すぎないことのよさを学んだから。情報量が少ない分、ちょっとしたことにも気を使って演奏するようにもなりましたね。ミュージシャンはみんな、芝居とコラボしたらいいのに(笑)。より奥深い面白さがわかるし、足りないものをどんどん足すのではなく、足りないことが武器になるくらい1音1音に心を込めて、インパクトのある演奏をすればいいんだということが学べると思うな。