判事の言葉に背中を押され、夫婦で財団を設立
11月12日に開催された“チャンピオン・オブ・チェンジ”日本大賞表彰式で挨拶をするフィッシュさん。お互いをリスペクトしているフィッシュさんご夫妻が「フィッシュ・ファミリー財団」を立ち上げたのは1999年。目的は移民や母子家庭の低所得就労世帯の支援でした。
「私も主人も仕事をリタイアして、これからどのような人生を過ごそうと考えていたとき、ワシントンの有名な判事さんからこんな言葉を伺ったのです。『人生は3段階に分かれている。最初の30年は学びの時代、真ん中の30年は学んだことを世の中で実際に使い、お給料をもらって生活する時代、そして最後の30年は自分たちが学んだものを世の中に返していく時代』。夫も私も、それはいい、社会に還元していくことができればと意見が一致して、多少貯めてあったお金で財団を設立しました」
「アメリカの場合、財団は基本的にタックスフリー。税金を払う代わりに世の中に貢献できればこんないいことはないんじゃないかと話し合い、老後を社会のために尽くすことに使ってみようと決めたのです。現在、3人の子どものうち2人が財団の理事を務めています。私たちの意志を継いでいるというとおおげさかもしれませんが、3人とも社会貢献に意義を見いだしていると思います」
“チャンピオン・オブ・チェンジ”日本大賞誕生まで
その後、フィッシュさんは2006年にJWLI(Japanese Women’s Leadership Initiative)を設立。JWLIは、非営利団体などで活躍する日本人女性を、さらに行動力のあるリーダーへ育成するため、ボストンで行われる4週間のプログラムを中心とした2年間にわたる研修を実施しています。
そうした日本人女性を支援する活動と、さらには2011年の東日本大震災後の復興支援活動が認められ、2013年にオバマ大統領から“チャンピオン・オブ・チェンジ賞”を受賞しました。
「オバマ大統領はご自身がハワイ出身だったこともあり、アジア系の女性で活躍している人に光をあてようという賞だったんです。その第1回の賞をいただいたのですが、最終候補に残っていたほかの7人のみなさんの発表がどれも心を打つ内容で、自分がスピーチするのが恥ずかしくなるほどでした」
「受賞の喜びに涙しながら、日本にも必ず、光が当たらないところで世の中に貢献している人がいらっしゃるはずだから、探してみたいと思ったのです。準備に4年かかりましたが、昨年初めて開催して、他薦方式で145人の女性が候補になりました。それほど多くの応募があるとは思っていなかったですし、一人ひとりの応募申込書が素晴らしくて、入賞者8名に絞るのが大変でした」
入賞者の熱のこもったスピーチに拍手を送るフィッシュさん。隣は協賛のティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インクの社長のダニエル・ペレルさん。大賞受賞者と入賞者全員にティファニー製のクリスタルボウルが贈られました。8組9名の入賞者の中から選ばれた大賞受賞者を発表するフィッシュさん。大賞受賞者の正井禮子さんと。式典の最後は、関係者全員で記念撮影。男女共同参画を担当した前内閣特命大臣の野田聖子衆議院議員の姿も。「昨年とても多かったから今年はもう集まらないかと心配していたら、今年も143名の候補が集まりました。本当にどの方に差し上げていいか迷った末、選考委員会のみなさんと選ばせていただいた大賞の正井禮子さんは、DVや貧困、災害といった女性の人権を脅かすさまざまな課題に息長く取り組まれている方です。ほかのみなさんも、地域のため、苦しんでいる人のために、立派な活動をされている方々ばかり。ただ、これほどたくさんの女性が活動をされているということは裏を返せば、それだけ必要があるということですね」
「本当のヒーローは草の根のNGOで働く女性たちです。私は後から支援をしているだけです。多くの読者の方達に彼女達の活動を理解していただき、感謝の気持ちを持っていただければと心から思います。またそして、何らかの形でボランティアもしくは、寄付することを考えていただけると嬉しく思います。」
「ご自分でも社会貢献活動をしたいと思われている方には、私は『失敗をおそれないでください』とお伝えしたいです。失敗するからこそ学びがあり、次に繋がるのだと思って、新しい一歩を踏み出していただければ」。にっこりと力強く笑顔でおっしゃった厚子・東光・フィッシュさん。同じ日本女性であることが誇らしく思えると同時に、自分も行動しなければ!と思わされました。
撮影/西山 航 取材・文/清水千佳子