従来から一歩進んだ結婚観を提示する──そんな6つの小説は、強烈なキャラクターが登場するわけではないのに、読後、人の印象が残るのは、それぞれの人物が細やかに描写されているからだろう。
「主人公たちの心中を覗き込むと、意外なことが見えてくるんです。たしかに小説の設定を考えるのは私ですが、物語は動かそうとすると、どこか無理が生じてしまう。これは、私が演じ手だからかもしれませんが、そういうときは自分を主人公の立場に置いて、どう感じ、動くかを考えるんです。
予め用意するのではなく、そこで出てくるものを表現するという点では、書くことにも即興的な面があります。小説は“三歩進んで二歩下がる”の積み重ねですが、最初の一文字目を書きだすときの新鮮な感覚を保つことが大切だと、そう思っています」
『残りものには、過去がある』
中江有里 著/新潮社 1600円
レンタル友だちとして新婦に祝辞を述べる栄子。栄子と同じテーブルに座った新郎の友人・池田。新婦と長く疎遠だった従姉の貴子......。ある披露宴を舞台に、連作ならではの人物のつながりで、物語が展開される短編小説集。 表示価格はすべて税抜きです。
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎
「家庭画報」2019年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。