昨夏、東京2020大会までの2年間という約束でスタートした「松岡修造の東京2020への道」は今、折り返し地点を過ぎたところです。正直にいうと、「お願いだから、時間よ止まれ!」という気持ち。終わってほしくありません。僕は常々「東京2020ですべて出し尽くして灰になる!」と公言していますが、それくらい、この大会にかけていますし、大会までの時間が生きがいなのです。 連載を通して、1年間いろいろなかたとお会いして感じたのは、素晴らしいパワーとうらやましさです。「これだけ自分をかけられるものがあって、しかもそれがオリンピック・パラリンピックにつながっているなんてうらやましい。そして、その情熱や強い意志を感じたい!」と、僕が思うみなさんとの対談をWebでも発信していくことになりました。ぜひ、みなさんもその思いを共有し、自分も参加するんだという気持ちで一緒に東京2020を迎えましょう。
松岡さんはソメイティ、谷口さんはミライトワを抱えてにっこり。一体ず づ手作業で作られている特大ぬいぐるみは14万400円(税込み)と高額なが ら企業を中心に人気なのだそう。東京2020オフィシャルショップ 台場店にて。第13回
キャラクターデザイナー 谷口 亮さん
国内外の小学校約20万クラスの投票で、昨年2月に決定した東京2020大会マスコット。その生みの親である谷口 亮さんは、家族と仕事と福岡とお酒を愛し、とにかくよく笑う人。一年ぶりに再会したという松岡修造さんから、どんな質問が飛んでこようとも、動じることなく、大らかに笑いながら、味のあるハスキーボイスで答えてくれました。
ブルーのアロハシャツは奥さまからの誕生日プレゼント。「金魚柄が好き なんです」と無邪気に答える谷口さんは小学生2人の父親でもあります。谷口 亮さん RYO TANIGUCHI1974年福岡県生まれ、在住。イラストレーターである父の影響で幼少期から絵を描き始める。アメリカ・カリフォルニア州のカブリロ・カレッジで美術を学ぶ。帰国後はイラストレーターの仕事をしながら、路上でオリジナルキャラクターのグッズを販売。得意とする可愛らしくポップな二頭身のキャラクターで東京2020大会マスコットに応募し、見事採用された。
頭の中が真っ白になったマスコット発表会
松岡 今日は福岡からわざわざありがとうございます。その下駄で飛行機に乗られたんですか。
谷口 はい、新調した下駄です。
松岡 アロハシャツに短パンに下駄、この連載で初めてですよ。マスコット発表のイベント(東京2020大会マスコット小学生投票結果発表会)のときは、どてらでしたね。
東京都内の小学校で行われたマスコット発表イベントで挨拶をする谷口さん。手に持っているのは記念品で、採用されたマスコットのフィギュア。左手で見守っているのはマスコット審査会座長の宮田亮平文化庁長官です。Photo by Tokyo 2020/UtaMUKUO谷口 服装については事前に組織委員会の人に相談したんです。そうしたら、「谷口さんらしい普段着で」というので、「どてらでも大丈夫ですか?」と聞いたら、「いいと思いますよ」とのお返事だったんですよ。
松岡 いやぁ、亮さんの風貌と近未来的なキャラクターとのギャップが強烈でした。ご挨拶では「頭の中が真っ白」と話されていましたが、ご自分の作品が選ばれたことは直前までご存じなかったんですか。
谷口 はい。待機していた控え室で「今集計が終わりまして、谷口さんに決まりました」といわれて、「おお!」と喜んだら、「はい、じゃあステージに行きましょう」となって。
松岡 「大好きな奥さんに早く知らせたい」ともおっしゃいましたね。
谷口 実はステージに向かう途中で「妻に連絡していいですか?」と聞いたら、止められまして。「生放送で発表するまでは絶対に誰にもいわないでください」ということだったんですね。そんなことがあって、ポロッと口から出たんです。
松岡 そうだったんですね。それで、大好きな奥さまは何と?
谷口 「すごいね、すごいね」といってました。職場のみなさんと生放送を観てくれたそうです。
リオ大会のセレモニーをヒントに、近未来のイメージでつくりました
――谷口 亮さん
松岡 子どもたちの心を摑んだキャラクターは、どのようにして生まれたんですか。
谷口 リオ大会のハンドオーバーセレモニーが近未来的だったので、日本が世界に向けて発信していきたいのはこういうイメージなんだなと思ったんです。それならマスコットは動物ではなく、新しい生命体を思わせるものがいいだろうと。そこに伝統や自然という対照的な要素を組み合わせてギャップを出せたら、面白くなると考えました。
松岡 ギャップというのは、人の心をワクワクさせてくれますね。先にできたのはどちらですか。
谷口 ミライトワです。エンブレムの市松模様をキャラクターに取り入れたいと考えていたときに、兜を思いついたんです。兜の形に四角を一つ加えたら市松模様になるなって。
松岡 なるほど。兜から突き出ているのは耳でしょうか?
谷口 耳というよりは翼のイメージです。スポーツの祭典なのでスピード感を表したくてつけました。
松岡 ソメイティのほうは翼ではなく、桜の花ですね。
谷口 はい。桜の触角です。ミライトワの伝統に対して、ソメイティは自然をテーマにしたので、日本を代表する花をモチーフにしました。