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大倉源次郎さんが語る伝統芸能の魅力とは?「“能”とは、日本人のアイデンティティーそのものです」

2019.09.24

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──「邦楽を楽しむ」ことを言葉にするとしたら、どのように表現されますか?

料理が人の身体を作るものだとしたら、能楽や芸術は人の心を育てるものだと思います。素材の良さを引き出して、その自然の恵みをお料理として口にすることで我々の身体はできています。

一方で、能楽は人の身体を通して舞台で演じ、人を取り巻く世界を感じていただくことで、心を育むものです。能の『羽衣』はお料理の「お造り」と同じ定番メニューですが、能楽も人類の歴史とともに、常に新鮮であり続けています。


例えば能の数ある演目の中でも、老婆を描いた曲は最秘曲として大切にされていて、その最初の見せ場が、「よっこいしょ」と休む場面です。今のエンターテインメントの世界とは真逆です。

パークハイアットお造り

当日の料理は季節の素材を使った旬のものが供される。写真はイメージ。

このように日本の芸能には派手さを舞台に求めるのではなく、観る側、聴く側に「おもしろい」と思う心を育てる文化なのです。「間は魔に通じる」という言葉がありますが、観たときの自分自身との対話を通して「間」を楽しんでいただければと思います。

パークハイアット東京「梢」

パーク ハイアット 東京の「梢」の内観。当日は特別ステージが設置される。

大倉源次郎と大江憲一郎

右から「梢」の料理長・大江憲一郎さんと大倉源次郎さん。お二人はかねてから交流があり、今回のプログラムが実現した。

令和という歴史的な節目を迎えた私たちは、これからの時代にいかにして能楽というものを伝えるべきかという大きな役割を担っていかなければなりません。

それは、芸能が心を育てる文化であることを再認識していただくことです。人生を寿ぐ『高砂』という一本松の老木の下を掃き清める老夫婦を描いた作品があります。

この作品で気品のある老夫婦を理想にしたというのは、和歌という言霊を互いに共有していたからこそ、友白髪になってもお互いを信じ、長い一生を一緒に楽しく過ごせたという和歌の徳を称えているのです。

一本の木にあるたくさんの松の葉は、言葉を意味しているもの。松の葉から滴り落ちるきらきら光る朝露のようなきれいな言葉がある。それを拾い集めて、五七五七七にまとめたのが和歌です。

自分の思いを歌にすることで感動を届け、それを受けとった人の身体の中で花や実に、種になりますよという意味を描いています。心を磨く種というのは、その人の身体の中で、その種が花を開かせたり、実になったりするもの。

それを育てる土壌があれば育つけれど、なければ種は芽を出しません。それを謡曲の『高砂』の中に入れているのです。これはとても大事なことで、たとえ伝えたいことを本にしたとしても読み手がその意図を読み解いてくれなければ、花にも実にもなりません。

だからこそ心の訓練をするために、和歌を詠み続けるべきだと思います。言葉を作り続けるという伝統文化、新鮮な食事と楽しんで身体を作り続けるという伝統文化と芸能というもので、人の魂を見て、舞台の上で演じて心を育てるという芸能文化。こうした伝統の柱を築くきっかけになればと思います。

大倉源次郎

能楽囃子方。大倉流小鼓方十六世宗家。父である大倉長十郎に師事し、1965年に初舞台。1985年に大倉流宗家を継承した。能公演をはじめ、多数のプロデュース公演を手がけている。公益社団法人能楽協会理事。2017年、重要無形文化財(人間国宝)の認定を受ける。
パーク ハイアット 東京 開業25周年記念“マスターズ オブ アーツ” 求道心〜能楽と長唄の会
10月17日(木)18時開場 18時30分開宴 会場:パーク ハイアット 東京 40階「梢」 料金:4万8000円(サービス料・税込み)※観覧料、食事代、飲み物代を含む。 お問い合わせ/電話03-5323-3460 イベント詳細はこちら
取材・文/山下シオン 撮影/坂本正行(世界文化社 写真部)
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