——河瀨監督の現場では、登場人物が経験してきたであろうことを役者たちがリアルに体験する時間が設けられます(=役積み)。浅田さんもベビーバトンがある似島で生活されたとか。「私たちからすると、役を積むっていうのは、長年やってきて慣れてきてしまっていることを、もう一度ちゃんと考え直すきっかけにもなるし、すごくいいなと思います。私は、ベビーバトンで暮らす役の子たちと一緒に生活していましたね。似島ってなんにもない島なんですけど、風景が素晴らしくて。島の人たちもすごく温かいんです。だから、命を授かった人たちがあそこで暮らすのは、すごく心が休まるというか。やっぱりいろいろな事情があってそこに来てるわけだから、癒やされるだろうなと思いました」
——カメラが回っていないところでも様々な場面が展開されていたそうですね。例えば、妊娠したひかり(蒔田彩珠)の両親がお相手の巧(田中偉登)の家を訪ねて「別れてほしい」と頭を下げたり。浅田さんにもそういった場面があったのでしょうか?「そういうのとはちょっと違うんだけど、ひかりちゃんが栗原夫婦に赤ちゃんを託すシーンは島じゃなくて、広島市のホテルなんです。そのとき、そこに修学旅行生が来ていて。セーラー服を着て、“お土産何買う?”とか楽しそうにしてるのね。それを見ていたら、撮影でもなんでもないのに、“ひかりちゃんも、ここの中にいるはずの子だったのに”、“あの子は今から産んだ子供を手放さなければいけないんだ”って、うわーっと涙が出てきちゃって。あれはちょっとつらかったですね」
ベビーバトンの目の前は海で、「波の音で目覚めるとか眠るとか、都会に住んでいると、そういうことがないから」心が安らいだという。