フィギュアスケート愛(eye) 本誌『家庭画報』の「フィギュアスケート」特集を担当する、フリー編集者・ライターの小松庸子さんが独自の視点で取材の舞台裏や選手のトピックスなどを綴ります。
バックナンバーを見る>>> 2019年10月5日、ジャパンオープン。試合前、満員のさいたまスーパーアリーナを眺めながら、激動だったこの1年の日本フィギュアスケート界に思いを馳せていました。
昨年10月6日に開催されたジャパンオープンでのゲストスケーターの1人は、その日フィギュアスケートの実演家を引退した町田 樹さん。フィギュアスケートへの限りない畏敬の念を込めて「Double Bill」を演じ、スタンディングオベーションと盛大な拍手の中、銀盤に別れを告げました(
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そして、翌日は現役復帰した高橋大輔選手が出場する近畿フィギュアスケート選手権。尼崎スポーツの森も、地方大会とは思えない観客数と取材陣の数で、ジャパンオープンに勝るとも劣らない熱気に包まれていました(
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まさか、そこから1年で髙橋選手がアイスダンスに転向する宣言を聞くことになろうとは。すべては一期一会。いま、この時に出会うことができたスケーターに感謝して、そのプログラムを心に焼きつけておくことの大切さをしみじみ感じながら迎えた、今年のジャパンオープンとなりました。
国内大会の本格的な幕開けとなるジャパンオープン。今回もまた衝撃、圧巻の演技が待っていました。なかでも特にインパクトのあった現役選手とそのプログラムを、演技順にいくつか振り返ってみます。
試合後の記者会見で「ミスはあったが、ある程度前半は特に満足できました。修正してスケートアメリカに臨みたい」と納得の表情を浮かべたネイサン・チェン選手。ネイサン・チェン選手 アメリカ
FS「ロケットマン・メドレー」
189.83点 1位
2018年、2019年世界選手権王者のネイサン・チェン選手。安定感のある美しいジャンプだけでなく、その踊り心溢れる演技で、毎回新鮮な驚きを与えてくれる魅力的なスケーターですが、今シーズンも挑戦しています。ようやく、噂のフリースケーティング(FS)「ロケットマン・メドレー」を目にすることができたわけですが……、これは会場の空気をつかむプログラムですね。振付は昨シーズンのFS「LAND OF ALL」に続き、マリー=フランス・デュブレイユさん。ロマンティックダンスの第一人者とも言われていたカナダ出身のアイスダンス選手で、現在はアイスダンスのコーチ兼振付師として活躍。テッサ・ヴァーチュ&スコット・モイア組、ガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組などの指導でも知られています。
何でもできるネイサンの個性をうまく引き出した構成は、前半と後半で別のプログラムかと見まがうほど。優雅なトーンで進む前半の演技から、ガラリと変わる曲調に合わせた後半でヒップホップ的なダンスまで見せてくれるとは。ネイサンの引き出しの多さに改めて脱帽です。
つなぎのスケーティングもさらに柔らかさを増し、踊りでも楽しませてくれるので、フリップ、トウループ、サルコウの3種類の4回転4本を成功させましたが、いい意味でジャンプだけが目立つことなく、ひとつの作品の中に溶け込んでいるように感じました。
今季の開幕早々で、すでにこの完成度。これから滑り込んでいったら、どれだけ昇華した演技を見せてくれるのでしょう。ネイサン・チェン選手の止まらない進化、今シーズンも要注目です。