人生百年時代を迎えて“生きる”を問う「幸福寿命」 第3回 現在、100歳を超えている人々が約7万人弱。果たして、長寿は幸福なのか?長寿社会における幸福とは? 幸福な寿命とは?慶應義塾大学医学部教授であり、第19回日本抗加齢医学会総会会長の伊藤 裕先生と考えます。前回の記事は
こちら 対談 3.と4.を読む5.「腸内細菌」に健康長寿の秘密が?
慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科教授 第19回日本抗加齢医学会総会会長 伊藤 裕先生伊藤 私たちの意識や性格を変えるパートナーとして最近注目されているのが腸内細菌です。ヒトとの共生関係がうまく築かれると腸内細菌が産生する代謝産物、いわゆるホルモン様の物質がヒトの性格を変えることがあるといわれています。
山田 腸内細菌のパターンを変えることで人格が変わったというような症例報告はあるのですか。
伊藤 残念ながらまだありません。ただ、神経の病気であるパーキンソン病は腸内細菌の異常が脳に直接影響することが証明されており、ヒトの性格の変化でも同じようなことが起こっているのではないかと考えられています。
山田 腸内細菌のパターンは生まれてから変化しないそうですが、それを変えることはできますか。
伊藤 大まかに変わらないだけで、いろいろな影響を受けると多少は変わります。そして少しの変化でも身体にはそれなりの影響が出ます。このような特性を利用し、腸内細菌のパターンを操作することが新しい治療法の1つとして始まっています。
山田 どのような方法で腸内細菌のパターンを変えていくのですか。
伊藤 腸内細菌の餌となる食事の内容を変えることはもちろん、カプセルに入れた腸内細菌を服用し腸に届けて生着させることも考えられています。
技術がさらに進めば腸内細菌をまるごと入れ替えることも可能かもしれません。「便移植」といって腸の中に他人の便を入れることがすでに行われていますから。ただ、もともと棲んでいる腸内細菌のほうが強くてなかなかうまくいかないようです。
山田 やはり、淘汰を生き抜いてきた生物は手強いと。
伊藤 しかしながら、いいものに入れ替える、改良するという概念は実はあやしいものだと思っています。病気を治すのは壊れたものを修理すればいいので割合にシンプルですが、改良となると誰にとっての“いいもの”なのかをよく考える必要があります。技術的には可能だけど、果たして実行してもいいのか。
山田 まさに人間の理性が問われる場面ですね。