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がんになった医療者の治療選択と向き合い方。看護師 射場典子さん 第3回(後編)

2018.02.09

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治療法を選択する際にも、他者の経験知は参考になる


射場さんは、語り手に応募してくれた各地の患者のもとを回り、その語りにじっくり耳を傾ける日々を過ごします。「同じ乳がんといっても一人一人違った体験をされていて、その人なりに頑張っている様子を見ると励まされました。また、患者さんの言葉に背中を押され、前に進むこともできたのです」。

当時、射場さんは月1回、卵巣がんの経過観察を続ける身でした。検査結果が出るまで落ち着かないのはもちろんのこと、下腹部の痛みなど少しでも自覚症状があると再発を疑ってしまい、「検査に行くのが怖い」と何度も思ったそうです。

こんな再発への恐怖も、ある乳がん患者の語りを聴いたことで和らいだといいます。「その患者さんは再発して治療中でしたが、“気持ちまでがんに明け渡さない”と語られたのです。


そして、これから治療がうまくいかなくなる局面がやってきたとき、正直どう向き合えるのかわからないけれど、これまで経験してきたことをもとにぶつかるしかないと。本当にそのとおりだと思いました。どのような状況に置かれてもそのときの自分を信じ、精いっぱい生ききることが大事だと気づかされたのです」。

患者の語りで再び前を向くことができた経験から射場さんは、いつでも見たいときに他人に知られることなく閲覧できる利点があるディペックス・ジャパンのウェブサイトを、治療中や療養中の患者やその家族にまず活用してほしいと願います。

「プライバシーにかかわる病気の体験をあえて語ってくれる患者さんには、“自分と同じようなつらい目に遭ってほしくないから、この経験を役立ててほしい”という強い思いがあります。だからこそ、私たちはその語りから生きる勇気や闘病の知恵を得ることができるのです」。

一方、射場さんの友人で新潟大学医学部保健学科教授の有森直子さんは、治療法を選択する際の意思決定支援ツールとしても患者の語りは有効になると期待します。

「治療法を決めるうえで意思決定をサポートする情報が必要になります。その参考となる情報には2種類あって1つは一般的に“エビデンス”と呼ばれる集団を対象にした情報、もう一つは“語り(ナラティブ)”と呼ばれる個別性の高い情報です。

いずれも重要な情報で、患者さんは客観的な数字(確率)で示される集団の情報とともに“自分と同じ状況の人はどうしたのか”という経験知(ナラティブ)も知りたくなります。その欲求を満たし、意思決定を助けてくれる一つのツールになり得るのがディペックス・ジャパンの患者の語りだと思います」と有森さんは説明します。

そして、このサイトは「射場さんのような研究者が患者の語りを分析したうえでテーマごとに分類し、専門家による医学監修を行っていることも情報の信頼性を高めており、そこが個人の経験だけに偏りがちな患者ブログとは大きく異なる点です」と評価します。
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