形見分けとなったお母さまのきものと積極的に向き合っていくことを決意した阿川佐和子さん。“チンプンカンプン”なことばかり……と迷走しながら、歩みはじめたきものライフを、小粋なエッセイとともに連載でお届けします。
連載一覧はこちら>>>無事に仕分けが済んで、嬉々として適材適所にきものや帯を収納する阿川さん。「仕分けの妙」――阿川佐和子
実家から持ち帰った母の着物をとりあえず和箪笥、茶箱、収納ボックス、段ボール箱に押し込んだはいいけれど、ただ押し込んだだけで、どれがなにやらチンプンカンプン。
「まず仕分けをいたしましょう!」
威勢良く声をあげてくれたのは本誌着物担当者のカバちゃんだ。仕分けと言われてシロウトでもわかるのは、冬物と夏物の違いぐらいか。いわゆる袷(ついハマグリと読んでしまう)と単衣に分けてみよう。裏がついていないのが単衣。これは単衣、こちらは袷だなと大ざっぱに積み重ねていると、「単衣と夏きものは違いますからね」とカバちゃん。へ? とまたもや手が止まる。単衣イコール夏きものではないのか。
「絽や紗や上布のように裏が透けて見えるきものは盛夏に着る夏きもの。透けない単衣は原則六月と九月に着るものです」
ほほう。スケスケとスケスケじゃないものに分ければいいのね。
そして冬きもの。そもそも訪問着と付け下げとの違いがよくわかっていない。かなり派手派手なのが訪問着。少し控えめに派手で、模様が裾や肩や袖にあり、しゃらしゃらしているのが付け下げ?
「まあ、だいだいそんなところです」
カバちゃん、やや放任気味のご返答。
着物の山を探っていくにつれ、母はけっこう大島紬を多く持っていたことがわかった。大島紬といえば黒地や藍色のものが多いと理解していたが、白地や淡い色合いのものもある。軽くてシャリ感があっていかにも着心地が良さそうだ。でも、大島紬は正装にはならないんですよね。なんで?
「伝統工芸品ではありますが、糸の段階で先に染めて織った絹織物、いわゆる『織りのきもの』である紬は、白い糸を織って反物にしたあと染色したり柄をつけたりした『染めのきもの』とは違う。正装には染めのきものを着るというのが決まり事なんですよ」
一口に紬といえども、大島紬だけではない。格子柄や絣、縞、井桁柄の紬。加えてウールの紬まで母は数多く持っていた。そしてそれらの紬きものに割烹着をかけて母は家事をこなしていたものだ。そういう母の姿に娘は憧れたのである。とはいえ、まだ紬きものを着て家事をこなすほどの自信と元気はない。まあ、ちょっとした食事会やコンサートなどに活用して着慣れていけばいいか。
一枚一枚を分類して種類と用途が少しずつ明らかになってくると、着る意欲も増してくる。結果的に今回の仕分けにより、母はおおよそ百枚近くの着物を持っていたことが判明した。暑い暑いと嫌がらず、夏きものも頑張って着ないともったいない。
ちなみに以前、
付け帯が二本出てきたと、このページでお伝えしましたが、その後さらに五本の付け帯が発掘された。半幅帯に至っては全部で十一本。浴衣を着るのも楽しみだ。あ、下駄を買わなくちゃね。
仕分けの“裏番長”は、阿川さんと40年来のおつき合いという着付けのイッシーこと石山美津江さん。きものを分類しながら、コーディネートの相談も。