形見分けとなったお母さまのきものと積極的に向き合っていくことを決意した阿川佐和子さん。“チンプンカンプン”なことばかり……と迷走しながら、歩みはじめたきものライフを、小粋なエッセイとともに連載でお届けします。
連載一覧はこちら>>>宮古上布をきりりと着こなす阿川さん。涼やかな佇まいに、都内でのロケも高原の情景のように感じられて。「夏きもの挑戦宣言」――阿川佐和子
元来が暑がりである。加えてこの猛暑、熱波、真夏日だらけの昨今、きものを着るのは苦痛以外の何ものでもあるまい。長らくそう信じていた。が、このたび仕分けをしてみれば、母が残したきものの中に、魅力的な夏きものがなんとたくさんあることか。畳紙の上に「はっぱちゃん(母の叔母)からいただいた宮古上布」、「志賀直哉夫人より。茶色の上布」などと母の字で書き残されている。出自は定かなかれどもいとも愛らしい菊市松模様の白地麻の着物や薩摩上布もある。悲観的な気持とは裏腹に、「着てみたい!」意欲がムラムラと湧き上がってきた。
絽、紗、上布……。と知っているかのように書き連ねてみたものの、実はそもそも絽と紗の違いがわかっていない。
仕分けのときに理解したレベルで言うと、まず6月や9月に着るきものを単衣と呼び、7、8月の「本気で暑いぞ」という盛夏に着るきものを「夏きもの」と呼ぶとのこと。で、夏きものの基本的な種類は、織り方の違いによって絽と紗に分けられる。いずれも見た目に透け感があり、より透け感の強いのが「紗」だという。つまり、単衣は6月と9月に着るスケないきもの。絽はスケスケ。紗はもっとスケスケスケ。でもって上布は麻の織物であり、スケスケな上にシャリシャリ。とまあ、こんな覚え方でよろしいでしょうか。
いくらスケスケであろうとも、きものの下に襦袢を着なければならない。きものの上には帯を巻かなければならない。となれば、やっぱり暑いに決まっているだろう。
「そんなことないの。着てみればわかる。洋服とそんなに変わらないわよ」
普段より、「洋服を着るよりきもののほうがうんと楽」と豪語する友人(踊りの師匠)はそう言っていたけれど、どう考えても夏場に着るムームー風ワンピースと比べたら、暑いにちがいない。大丈夫か? と疑いつつ、とりあえず着付けのプロ、イッシーに助けてもらって宮古上布を着てみたところ……、そりゃ涼しいとは申しませんが、想像したほど暑くなかった。むしろシャキッと背筋の伸びた気分になり、気構えとしては「涼しくみせたい」覚悟がつく。
とはいえ、温度計を見てみれば、今日も35度を超える猛暑である。私は今、菊市松模様の麻のきものを前に置き、じっと見つめ、どの帯が合うかを考慮検討中である。で、いつ着て出かける気かって? それが問題なり。
阿川さんが「スケスケな上にシャリシャリ」と覚えた宮古上布の美しい透け感。「想像したほど暑くないわね」と立ち位置まで小走りで戻るも、「さすがに走ると暑いわね……」と阿川さん。