谷松屋戸田商店 季節の茶花 谷松屋十三代目当主の戸田 博さんが、茶席の花について語ります。12月の花は「仏手柑」です。
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12月 仏手柑
来る年に祈りをこめて
語り/戸田 博畳も床の間もない家が増えています。暮らしのスタイルが住空間に反映しているのですから必然ともいえましょう。それを嘆いて和室の要素を取り込もうとしすぎて不自然なことになるよりも、今ある空間をそのまま生かすほうがよい。われわれ道具商が考えるしつらいというものは、基本的に自然というものとのコラボレーションですから、わざとらしさはできるだけ控えたいのです。
たとえば現在の戸田商店の店舗は半世紀以上前に建てられた建物で、奥に茶室はありますが、オフィス部分はすべて洋間です。建設から三十数年を経過した頃、私は一度この建物を改装しようと真剣に考えたことがありました。元のデザインがよいのに、なんとか手を加えようとしたのは、まだまだ若かったのですね。
しかし、何度考えても、そのままのデザインがよい。内観はともかく外観をなどと思って、外から眺めていろいろ考えるのだけれど、結局元に戻るのです。これは建物のデザインのことですが、伝統ということも同じではないかなと思うのです。
先達の方々がやってきたことは、建築もお茶も脈々と伝わってきているスタイルというものがあって、少し古びたように感じても実は普遍性があり、そう簡単に崩せるものでもない。伝統に甘んじてすがるということではなく、結局よいから元に戻る。和洋折衷とか、洋間に和の要素を取り入れるなどと聞きますが、そんなものがいちばん中途半端。空間が洋風なら、それを生かせばよいのです。
架空の生き物を表現した鉄の祭器に、年迎えのめでたい果物をかざる仏手柑(ぶっしゅかん)
鉄製お歯黒入れ インドネシア・スマトラ島
仏手柑は合掌する仏様の手のような形の柑橘類で、正月の縁起物としてこの時季好まれる。獣らしき祭器の上に、黄色い実と緑の葉をかざる。「花を入れるというより、仏の手をどう見せるかという感覚」と小林さん。
今月は仏手柑(ぶっしゅかん)という果実をリビングにかざっています。仏手柑はこの時季、縁起物としてよく見かける花材で、床の間にかざられる家もあるでしょう。ここではインドネシアの鉄の祭器の上に載せました。空間と物のバランスを考え、その家に合ったかざり方をすればよいのだと思います。