谷松屋戸田商店 季節の茶花谷松屋十三代目当主の戸田 博さんが、茶席の花について語ります。9月の花は「車葉白熊(くるまばはぐま)」です。
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野の花と秋月の茶会
語り/戸田 博
暦でいえばもう秋ですが、夏の名残も感じられる九月。今月は滋賀県の琵琶湖畔にある古民家の一室に茶席を設けています。
八畳の広間に一間(いっけん)の床の間。床の間の横にはこれも一間の脇板。空間を囲う土壁や障子などもシンプル、古い日本の家によく見られる造りです。
大徳寺の高僧の墨跡と現代作家の道具を取り合わせた、秋の月を愛でる席。このような奇を衒わぬ空間は、ほんとうに美しいですね。ちょうど湖畔からの光が、障子や下地窓から差し込んできて、薄暗い民家の部屋の中を明るく照らしています。
秋の月を味わう趣向で、床の間には春屋宗園(しゅんおくそうえん)の墨跡を掛けました。春屋は戦国時代の大徳寺の禅僧で、利休の参禅の師です。
春屋宗園の墨跡「天上月明渓畔雲暗(天上の月明(あき)らかに、渓畔(けいはん)雲暗し)」。天上の月の明るさと、渓谷のほとりの雲の暗さを対句にした一行物は、相対するものが呼応しながら存在するこの世界の摂理を表しているという。
なによりも、この一句から想い起こされる情景と文字の美しさ。この掛物ありきで、そこにどんな道具を寄り添わせるかというしつらいです。
床脇の板間に樂家15代の樂 直入(じきにゅう)作の花入を置いて、車葉白熊(くるまばはぐま)という花を入れました。
フランスで焼かれた花入に大きな葉っぱが特徴的な秋草を入れて車葉白熊(くるまばはぐま)
花入 フランス・ルビニャックの土を用いて
樂 直入作
輪生状に葉がついた車葉白熊は、山地に生えるキク科の植物で小さな白い花をつける。花入は樂 直入氏が南仏のルビニャックで、現地の土を用いて焼いたもの。胴に見える木のヘラで叩いたような景色が味わい深い。この花は「白熊」と書いて「はぐま」と読む。面白い名です。秋の草というと比較的小ぶりのものが多いけれど、葉っぱに存在感があり、樂さんのどっしりとした花入に合っています。
樂 直入さんとは古くからの親しい友人なのですが、十数年前に二人でフランスの陶芸家アンドシュ・プローデルという人物に会いに行き、それをきっかけに樂さんとアンドシュさんは国を超えて互いの工房を行き来して作品を生み出していきました。
この花入はその作品の一つです。点前座には光悦の黒茶碗と嵯峨棗を取り合わせて、そこに現代作家の白磁水指や茶杓を加えています。古く重い禅語に、樂さんが異国で作った花入、光悦の茶碗を核に現代作家の作品が脇を固めるというバランス。
今回ほとんど小林が道具の取り合わせも考えてくれたのですが、直感的でありながらとてもよくできていると思います。