これぞジュエリーの真髄 第12回(02) 指輪の世界 有川一三氏が主宰する「アルビオンアート」の歴史的な芸術品の数々を宝石史研究家の山口 遼さんの解説で紐解くジュエリー連載。最終回は、極めて奥深い指輪の世界をお届けします。
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ここでは、愛情という人間の想いがこもった指輪から見てみます。今日の婚約、結婚指輪の祖先ともいうべきものです。
1.[ルネサンス]エナメルゴールド フェデ・リング
製作年代:1580年頃
製作国:イタリア
フェデとよばれる1は2つの手が結び合ったデザインで、人と人の信頼を、ひいては愛情を示すもの。
これと似たもので、ギメルと呼ばれる指輪は2つ、3つに分かれていて、使う時に一つに合体します。
2.[ルネサンス]ギメル・メメントモリ・リング
製作年代:16世紀後期~17世紀初頭
製作国:フランス
2はルビーとダイヤモンドのパーツが左右に分かれ、片方には赤子、もう片方に死の床に横たわる老人を描き、メメントモリ、つまり死を忘れぬよう教えています。
18世紀を越えますと、中心に宝石をセットしたものが登場します。
3.王冠を戴いたハート型リング
製作年代:18世紀
製作国:イギリス(推定)
3はこの時代のダイヤモンドとしては非常に大きな石の上に王冠を乗せています。ダイヤモンドは当時、最も人気のあったハートに見立てたもの。ハートの上の王冠は、一般的に恋の成就を意味します。
4.ダイヤモンドとエナメルのラヴァーズノット・リング
製作年代:19世紀前半
製作国:未詳
もっと恋愛感情を示しているのが、ラヴァーズノットと呼ばれる指輪4。ブルーのエナメルの紐が複雑に結ばれていて解けない、つまり恋が終らないという意味が込められています。
近世になりますと、こうした感情移入はしだいに薄れてゆき、宝石の大きさ、美しさを追求したものが主流となります。
5.[ルネ・ラリック 作]スワン・リング
製作年代:1898~1899年頃
製作国:フランス
とくに19世紀後半にアフリカで鉱山が発見されると、中央に大きなダイヤモンドをセットした指輪が増えますが、その前にアールヌーヴォーの指輪5を。
ラリックとしては珍しいものですが、幅の広い金の上に、水面を泳ぐ4羽の白鳥をエナメルで描いています。
6.王冠を戴いたハートと手のリング
製製作年代:19世紀初頭
製作国:ヨーロッパ
6はハートに見立てた大粒のダイヤモンドを2本の手が支え、上に王冠が乗っています。男女の愛が成就したことを示すにしては王冠が大きく、単にデザインとして王位に近い女性のために作られたものかもしれません。
7.ダイヤモンド クラスターリング
製作年代:1840年頃
製作国:イギリス(推定)
7のようにまわりに小粒のダイヤモンドを上手く並べて、より大きく見せる指輪も多くあります。
8.ダイヤモンド クロスオーバーリング
製作年代:1935年頃
製作国:イギリス
8は2粒のダイヤモンドをクロスオーバーさせて腕に小粒なダイヤモンドを入れた、今までには見られない形式です。
色石も負けてはいません。
9.エメラルド ダイヤモンドリング
製作年代:1910年頃
製作国:イギリス(推定)
珍しくカボションにカットしたエメラルドをダイヤモンドで取り巻いた9は、素晴らしいエメラルドです。
この時代になってくると、指輪の価値の中心が、デザインや作りというよりも、中心の石の値段になっていくのがわかります。
最後に、そうはいっても大胆不敵なデザインの指輪を2つ。
10.[ヴァン クリーフ&アーペル 作]ボンブ・リング
製作年代:モダン
製作国:フランス
10はごく最近の作品で、中央にマーキスカットのダイヤモンドをセットし、その周辺をインヴィジブルセットのルビーで取り囲んだもの。宝石の数が増えるほど金属の爪が見えてうるさくなるのを避けており、見事な作りです。
11.[シュザンヌ・ベルペロン 作]パール ダイヤモンド カルセドニーリング
製作年代:1963年
製作国:フランス
11はカルセドニーを研磨して小山のように作り、その上に小さな真珠とバゲットカットのダイヤモンドを乗せたもの。何ともとぼけた表情が魅力です。
こうして指輪の変遷を見ますと、昔も今も人間のさまざまな感情が込められた特別なジュエリーだということが、おわかりいただけたでしょうか。
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