これぞジュエリーの真髄 特別編(01) 煌めきの日用小物 有川一三氏が主宰する「アルビオンアート」の歴史的な芸術品の数々を、宝石史研究家の山口 遼さんの解説で一年間お届けしてきたジュエリー連載。今回は特別編として、王侯貴族が愛用していた美しい日用小物をご紹介します。
連載一覧はこちら>> 王侯貴族の生活の中で
自分で見聞きしたわけではないのですが、王侯貴族、あるいは大富豪たちの生活というものは、実際には恐ろしく退屈なものだったのではないかと思います。
衣食住に苦労はないものの、すべては人任せ、好きなところに自由に行けるわけでもなし、会いたいと思う人に簡単に会えるわけでもない。四六時中人目がある。
そうした中で、とくに女性たちにとっては、自分の日常生活を豊かにすることが数少ない楽しみだったのではないかと推察します。
今回、アルビオンアートのコレクションから特別にご紹介するのは、ジュエリーと同じような素材と技術を使い、身のまわりに置いて楽しんだ日用小物の数々です。
王侯貴族といっても所詮は同じ人間、日々やることは庶民と一緒です。食事をし、水やワインを飲み、化粧をし、風呂に入る。そのレベルや頻度が違っても、日々の営みは基本同じです。しかし、その時に使う道具がすごいのです。
1.[ファベルジェ 作]ギョシェエナメルのペアの容器
製作年代:1905年頃
製作国:ロシア
1の小さな2つの壺は、表面に見事なギョシェエナメルが施され、小さな突起が付いています。これはファベルジェの作品ですが、用途がわかりますか?
当ててみてください。答えは次回の記事の最後に記します。
2.[ファベルジェ 作]ギョシェエナメルのカップ
製作年代:1908~1917年頃
製作国:ロシア
3.[ファベルジェ 作]ネフライトのペーパーナイフ
製作年代:1890年代(推定)
製作国:ロシア
2と3もファベルジェの作品。2のカップは綺麗なギョシェエナメルが美しく、3のペーパーナイフは見事な翡翠が刃になっています。ロシアの貴族はフランス語が日用語でしたから、フランスから届いた本のページなどをこれで切ったのでしょうね。
4.女性の脚のシール
製作年代:19世紀、インタリオ/2世紀、ハンドル/19世紀
製作国:イギリス(推定)
4は男性用のものだと思いますが、女性の脚を象ったもので、15金製。黒のガーターをつけています。これは実はシールで、一番上のところに古いインタリオをはめ込み、封書の裏や署名の後ろなどに蠟をたらして、封印をするのに使ったのでしょう。
さて、英和辞書で FANを引きますと、うちわ、扇、扇子と訳語が出てきます。これは日本人には不思議です。我々にとってはうちわと扇子はまったく別のもの。
扇ぐ部分が固定されているうちわは、古代エジプトから中国に至るまで各国で使われていますが、うちわとは異なり畳むことができ、左右に開いて使う扇子は、日本で発明されたものです。
扇子は西欧に伝わり、そのデリケートさが愛され、多くの作品が残っています。日本のものは竹と紙が中心ですが、西欧のものは豪華絢爛。
5.水彩画とマザーオブパールのファン
製作年代:1760年頃
製作国:フランス
5は軸の部分にマザーオブパールを使い、細かい細工が施され、華やかな絵が描かれています。
6.マザーオブパールのレースのファン
製製作年代:1820年頃
製作国:未詳
レースに見える6はマザーオブパールを精緻に彫ったもの。一番外側の軸には金細工の上に宝石をちりばめています。
さらには、用途がいささかわからないものもあります。
7.ゴールド製ドレスホルダー
製作年代:1860年頃
製作国:フランス(推定)
7はドレスホルダーと呼ばれているのですが、ワニ口の部分が円環から下がっています。推測するに、円環に指を入れ、ワニ口でスカートを挟み、持ち上げたとしか思えない。
この時代、パリもロンドンも道路はゴミだらけだったのですから、指で持ち上げてもそんなに変わらないと思うのですが、不思議な道具ですね。
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