リシャール・コラスの京都暮らし 日本の美しさ再発見(2) 自転車に乗って船岡温泉にやって来たリシャール・コラスさん。3か月間の京都暮らしで、自転車はコラスさんにとって移動に欠かせない相棒となりました。近隣だけでなく、仮住まいのある北部から四条、五条あたりの中心部までも軽快に自転車を駆る毎日です。
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リシャール・コラス
1953年フランス生まれ。50年近くに及ぶ日本でのビジネスマン生活に終止符を打つ。小説家としての顔ももち、積極的に執筆に取り組んでいる。
銭湯、豆腐、おばんざい……自転車で訪ねる“日常の京都”
「京都は北と南の高低差が大きくて、最大で京都タワーの高さくらいあるんです。だからね、北に向かって帰ってくるときはちょっと大変」と苦笑い。それでも、かつて1泊、2泊で慌ただしく駆け抜けていた京都の町に暮らしながら、気ままに自分のペースで自転車をこぐ、そのゆったりとしたリズムが心地よいのだといいます。
京都に暮らして、坐禅とともにコラスさんの日常に加わったのが銭湯通いです。
愛車のかごにはいつものお風呂セットを。まだ肌寒かった初春の午後、愛用のちゃんちゃんこを羽織って登場。これは「シャネル」を退職する際、修繕部のスタッフが心を込めて作ってくれた一点物。
「銭湯って時間帯によって客層が変わるでしょう。私が行く夕方の早い時間は地元の年配の方が多い。最初の頃は『あの外国人は?』と遠巻きにされていた感じでしたが、毎日通ううちに少しずつ言葉を交わすようになって。もうすっかり裸のつきあいです」
1923年に料理旅館の浴場として開業し、戦後銭湯に。欅の格天井に施された彫刻や欄間の透かし彫りに圧倒される脱衣所(上)や、色鮮やかなマジョリカタイルに彩られた浴室への渡り廊下(下)など、そこかしこに大正・昭和のレトロな趣を色濃く残す。2003年に京都の銭湯としては初めて国の登録有形文化財に登録された。「歴史を知ると、さらに興味をそそられます。貴重な建物をぜひ遺してもらいたいですね」とコラスさん。
船岡温泉京都市北区紫野南舟岡町82-1
TEL:075(441)3735
(営)月曜~土曜15時~23時30分、日曜8時~23時30分
無休
「町の風景になじんだ 地元に愛される店がいい」
行きつけの店もできました。「大徳寺 京豆腐 小川」は、豆腐もお揚げ類もすべて制覇するほどのお気に入りです。「地元に根ざした店との出会いも楽しみの一つ」とコラスさん。また、大徳寺真珠庵のご住職に案内されたおばんざいの店「うたかた」は、女将の人柄と味にひと目惚れしてたちまち常連の仲間入り。京都を訪れる友人たちも伴ってせっせと通っているとか。「京都で帰ってくる場所がまた一つ増えました」。
観光客が溢れ、喧騒の絶えない古都の素顔はなかなかのぞけないけれど、一度立ち止まって暮らす人と同じ目線に立つことで見えてくる日々の営み。その豊かさに触れ、新しい人との出会いに心を躍らせる。「人生において人との出会いが何よりの財産ですから」。
京都らしいおばんざいと女将の温かなおもてなし
住宅街に佇む町家造りの店「うたかた」。女将の有田紀子さんは子育てを終えた頃、「あなたのご飯はおいしいから」と人々に背中を押され、一念発起して店を始めて24年。
「健康的な料理ばかり。何でも食べます」とご満悦のコラスさん。なすとにしんの炊いたん、みょうがとおじゃこのおひたし、ねぎと揚げのてっぱい……京の味にお酒もすすみ会話も弾む。
旬の素材を生かした京都らしいおばんざいを目当てに、地元だけでなく遠方からもファンが訪れます。「このあたりは暮らしやすいおすえ。おばんざいに使う京野菜も豊富で、うちはよそへは出かけしませんえ」とたおやかに笑う女将の人柄も人気の所以です。
うたかた京都市北区紫竹西桃ノ本町53
TEL:075(495)3344
(営)17時30分~22時
不定休 要予約
誠実な手仕事を感じる町の豆腐屋さん
「豆腐もお揚げもひろうすも全部おいしい」とコラスさんが絶賛する「大徳寺 京豆腐 小川」。明治23年の創業以来、大徳寺の門前でのれんを掲げ、地元で長く愛されてきました。
[コラスさん行きつけ京都の日常ご飯]
冷たい井戸水からすくって詰められる、豊かな風味の白豆腐(220円)。
揚げ(220円)、飛竜頭(120円~)、総菜などはでき上がり次第店頭に並び、11時頃には全商品が揃う。
豆腐作りを支える良質な水に恵まれた京都の地で、基本に忠実かつ丁寧な、昔ながらの味を守り続けています。「大変な仕事。でも、町になじんだここのような豆腐屋さんが残っているところも京都らしい」(コラスさん)。
大徳寺 京豆腐 小川京都市北区紫野上門前町55
TEL:075(492)2941
(営)10時~18時
日曜・祝日定休
〈column〉
文士・コラスさんの今月の逸品
「小説のテーマはいっぱい頭の中にあります。一年に1冊は本を書きたい」と意欲を燃やすコラスさんにとって、欠かせないツールが眼鏡です。ここ数年、執筆のときに愛用しているのはフランスのブランド「レスカ ルネティエ」のもの。東京・代官山の「グローブスペックス」でたまたま見つけて気に入ったとか。どこかヴィンテージっぽい雰囲気が「文士」にぴったり。さらに京都暮らしを始めて、またも偶然に「グローブスペックス」の京都店で同ブランドの新しい眼鏡を見つけ、購入。明るさに応じて色が変わる調光レンズを入れ、こちらは街歩きのお供に。
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