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佐々木蔵之介「南イタリアの旅」【前編】奇跡の平和を実現した天才皇帝の故郷、シチリアへ

2024.07.17

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〔特集〕佐々木蔵之介が行く「南イタリアの旅」(前編) ウクライナ、パレスチナ......今も続く戦争。⼈類は戦争を終わらせることはできないのか? 今からおよそ800年前、この問いに⾼らかに「NO」と宣⾔した⼈がいた。神聖ローマ皇帝・フェデリコ2世(1194~1250年)。時は中世。キリスト教徒とイスラムの戦争「⼗字軍」が泥沼化していた時代。味⽅のはずの教皇から「破⾨」を受けてでも平和へと邁進し、あっと驚く⽅法で敵のリーダーと⼼を通わせ奇跡の講和を実現したフェデリコ。そんな破格の皇帝をこの夏舞台で演じる佐々⽊蔵之介さんが陽光に満ちた南イタリアを訪れ、フェデリコの⾜跡を辿った。

・特集「佐々木蔵之介が行く 南イタリアの旅」の記事一覧はこちらから>>

「奇跡の平和」を実現した天才皇帝の⾜跡を辿る

「アラブ・ノルマン様式の建造物群」として世界遺産に登録されたパレルモ大聖堂の前で。イスラム教徒のモスクだったものを12世紀末シチリア-ノルマン様式の教会に改築。のちにバロック、ネオクラシック様式の装飾が施されるなどパレルモの歴史を反映した混合様式になっている。

佐々木蔵之介(ささき・くらのすけ)
1968年京都府生まれ。2000年NHKテレビ小説『オードリー』で注目される。以降確かな演技力でシリアスからコメディまで、舞台、ドラマ、映画で幅広く活躍。映画では2015年日本アカデミー賞優秀主演男優賞、2020年同賞優秀助演男優賞を受賞。NHK大河ドラマ『光る君へ』、テレビ朝日『Destiny』に出演中。自ら演劇ユニット「Team申」を立ち上げ、『狭き門より入れ』『君子無朋』などを上演。2024年8月から舞台『破門フェデリコ~くたばれ! 十字軍~』で主演を務める。ファンサイト「TRANSIT」URL:https://sasaki-kuranosuke.com/

少年フェデリコを育んだ地【シチリア島・パレルモ】
⺟の⾥シチリアは地中海⽂化が混ざり合う島

現在、シチリア州議会が置かれているノルマン王宮の2階にある「パラティーナ礼拝堂」(世界遺産)。1130年にシチリア王となったフェデリコの母方の祖父、ルッジェーロ2世が建立を開始。写真:壁面やクーポラは黄金色のモザイクで彩られて。壮麗なビザンチン装飾とのコントラストを見せる木製の天井や床のモザイクはアラブ装飾。

「神のために“戦え”といわれた時代、なぜフェデリコだけは従わなかったのか?どんな環境で育ち、何を決意したのだろうか」


イタリアの南に浮かぶシチリア島の中心地パレルモ。破格の皇帝フェデリコ2世の「原点」だ。

父はドイツを治める神聖ローマ帝国の皇帝。母はシチリアと南イタリアを治めるシチリア王国の女王。屈指の権力者を両親に持ち、生まれながらにしてキリスト教国の主導的役割を担うことが決まっていたフェデリコ。しかし運命は彼を翻弄する。

2歳のときに父が、3歳のときに母が死去。幼きフェデリコは暗殺や幽閉を避けるため、母の故郷シチリアで10代まで育つ。

「こんな綺麗な教会は初めて見た」と佐々木さん。

「こんな綺麗な教会は初めて見た」と佐々木さん。

地中海貿易で栄えたシチリア王国は、キリスト教の国でありながら、ムスリムやギリシャ正教徒が高官に抜擢されるなど多民族が共存。王家が祈った「パラティーナ礼拝堂」もイスラム様式とビザンチン様式が融合している。

この地で若きフェデリコはアラビア語も習得した。礼拝堂の地下宝物庫には彼が愛用したと伝わる箱がある。そこにはアラビア文字と、アラブの風習であった「鷹狩り」の絵が。

フェデリコ愛用と伝わる象牙細工の箱にはアラビア文字が美しくあしらわれている。

フェデリコ愛用と伝わる象牙細工の箱にはアラビア文字が美しくあしらわれている。

同じく愛用の木箱に刻まれたアラブ人の鷹狩りの様子。

同じく愛用の木箱に刻まれたアラブ人の鷹狩りの様子。


彼は生涯鷹狩りを愛したが、シチリアの広い空、さらにその先のアラブ世界とつながる思いがあったのか。「十字軍の時代でもイスラム世界を敵、野蛮人とは見ていなかったと感じる」(佐々木さん)。

初めて訪ねたシチリアで感じた「寛容」と「余裕」
── 佐々木蔵之介

中心部に建つ「マッシモ劇場」。正面階段は映画『ゴッドファーザー3』の撮影に使用されたことでも知られる。

中心部に建つ「マッシモ劇場」。正面階段は映画『ゴッドファーザー3』の撮影に使用されたことでも知られる。

シチリア島のパレルモは、同じイタリアでも、以前旅行で訪れたことのあるローマやフィレンツェとは全く違う、不思議な「風」を感じる町だった。

映画『ゴッドファーザー3』のイメージもあり、少し身構える部分があったのだけれど、到着した翌朝に訪れた市場で、そのイメージはすぐに一変した。

フェデリコの時代からあるバッラロ市場には地中海地域の産物が並ぶ。旬の果物はスペイン産KAKI(柿)。「甘い!」と佐々木さん。

フェデリコの時代からあるバッラロ市場には地中海地域の産物が並ぶ。旬の果物はスペイン産KAKI(柿)。「甘い!」と佐々木さん。

市場名物グルメはギリシャ式もつ焼きスティッギョーラ。

市場名物グルメはギリシャ式もつ焼きスティッギョーラ。

魚に肉、野菜に果物、地中海地域のありとあらゆる産物が並ぶ中、「これ食べていけ」「これ味見してみろ」のオンパレード。その寛容さからは、古代より地中海の要衝として貿易で栄え、異邦人を迎え入れ続けてきた歴史の「厚み」が感じられた。

文明の十字路と呼ばれるシチリア州最大の都市、パレルモ。バロック建築(左)やアラブ・ノルマン様式の建築(右)が混在する独特の町並み。

文明の十字路と呼ばれるシチリア州最大の都市、パレルモ。バロック建築(左)やアラブ・ノルマン様式の建築(右)が混在する独特の町並み。

フェデリコ2世が育ったシチリアの王宮内にあるパラティーナ礼拝堂も、王室に相応しい絢爛さながら決して畏れは抱かせない、親しみを感じる場所。それはきっと、教会という本来厳格な場所なのに、ギリシャ、アラブの様式が混ざり合う「垣根のなさ」がそうさせているのだろう。

この姿勢の背景にあるのは、この島の圧倒的な豊かさ。異教徒を許さない! 聖地を奪還する!と叫んだ十字軍の緊張感に包まれていた当時、豊かさがもたらす「余裕」がフェデリコに与えた影響の大きさを思う。

ヌォーヴァ門を背景に。

ヌォーヴァ門を背景に。

馬車ならぬロバ車での町巡りも楽しい。

馬車ならぬロバ車での町巡りも楽しい。


この島の気風の中で育ったからこそ彼は、「十字軍なんて続けていて何の意味がある?」と思ったのではないだろうか。

十字軍とフェデリコ2世

イタリア南部の港町ブリンディジ。古代ローマ時代からアドリア海の重要な拠点で、十字軍はここから戦いに向かった。アッピア街道の終点を示す古代ローマの円柱(レプリカ)が立つ港には、外国の大型客船が多く寄港する。Photo/Angelo D'Amico/iStock

イタリア南部の港町ブリンディジ。古代ローマ時代からアドリア海の重要な拠点で、十字軍はここから戦いに向かった。アッピア街道の終点を示す古代ローマの円柱(レプリカ)が立つ港には、外国の大型客船が多く寄港する。Photo/Angelo D'Amico/iStock

フェデリコが生まれる100年ほど前に始まった十字軍。7世紀の発祥以来急速に広まったイスラム勢力への牽制と聖地エルサレムの奪還を目指し、ローマ教皇の命で実施された。

教皇グレゴリウス7世に逆らった神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世が雪の中で許しを請うた「カノッサの屈辱」(1077年)が表すように、圧倒的な権力を誇った当時の教皇。

第1回十字軍は「馬の脚まで血で埋まる」ほどの虐殺の末、エルサレムを奪い返した。しかしやがてイスラム側に英雄サラディンが現れると、即座に占領される。怒った教皇は矢継ぎ早に十字軍を派遣するも連敗。フェデリコの父方の祖父は陣中で没した。

港近くにある、十字軍の兵士が出征前に立ち寄り、祈りを捧げた「サン・ジョヴァンニ・アルセポルクロ教会」。入り口の門にはキリスト教徒が天国に、イスラム教徒が地獄に落ちるという彫刻が。

港近くにある、十字軍の兵士が出征前に立ち寄り、祈りを捧げた「サン・ジョヴァンニ・アルセポルクロ教会」。入り口の門にはキリスト教徒が天国に、イスラム教徒が地獄に落ちるという彫刻が。

戦士の壁画が残る教会内部では十字軍に加わる儀式が行われた。「逃げたくても逃げられない。なかば“狂気”だったのではないか」(佐々木さん)。

戦士の壁画が残る教会内部では十字軍に加わる儀式が行われた。「逃げたくても逃げられない。なかば“狂気”だったのではないか」(佐々木さん)。

こうした中で聖地再奪還の使命を課せられたフェデリコ。18歳の時、十字軍指揮を教皇に約束させられる。しかしシチリアで育った彼は、イスラムと戦う無意味さを熟知。戦を求める教皇に「破門」(結婚も葬儀も許されない社会的死刑)を何度も受けながらも平和を模索する。

破門の際に作られたメダルのスケッチ。Photo/Roger-Viollet〈アマナイメージス〉

破門の際に作られたメダルのスケッチ。Photo/Roger-Viollet〈アマナイメージス〉

得意のアラビア語を駆使し、イスラム王朝のスルタン、アル=カーミルと3年以上の手紙のやりとりを通し、1229年、奇跡の講和を実現。戦わずして聖地を奪還した。

その後、休戦協定が切れると十字軍は再開するも惨敗。エルサレムも失う。結局聖地を手にしたのはフェデリコが最後となった。

〔392年〕ローマ帝国、キリスト教を国教化
〔610年頃〕ムハンマド、イスラムの教えを説く
〔638年〕イスラム勢力、エルサレムを征服
〔1095年〕ローマ教皇、第1回十字軍を呼びかける
〔1099年〕第1回十字軍、エルサレム占領
〔1149年〕第2回十字軍、敗戦
〔1187年〕イスラム王朝のサラディン、エルサレム占領
〔1192年〕第3回十字軍、エルサレム奪還叶わずフェデリコの父方の祖父フリードリヒ1世陣中で死去
〔1194年〕フェデリコ2世誕生
〔1204年〕第4回十字軍、エルサレムに向かわずビザンツ帝国で略奪を行う
〔1212年〕フェデリコ2世、神聖ローマ皇帝即位
〔1221年〕第5回十字軍、敗戦(フェデリコ2世参戦せず)
〔1228年〕フェデリコ2世、第6回十字軍参戦を約束するも進軍せず、教皇から破門される(翌年、再破門)
〔1229年〕第6回十字軍、破門されたままエルサレムへイスラム王朝のスルタン、アル=カーミルと講和 エルサレム無血開城(十字軍史上初)
〔1231年〕フェデリコ2世、「メルフィ法典」発布
〔1239年〕教皇、フェデリコ2世を3度目の破門
〔1250年〕フェデリコ2世死去
〔1254年〕第7回十字軍、惨敗 仏王ルイ9世捕虜となる

(後編へ続く。この特集の記事一覧はこちらから>>

『破門フェデリコ〜くたばれ! 十字軍〜』

キリスト教に支配されていた13世紀ヨーロッパ。最高権力者のローマ教皇から最大の罪である「破門」を3度いい渡されながら、その類いまれなる頭脳で、一向に決着しない十字軍の戦争を休止させ、奇跡の平和を実現した神聖ローマ帝国皇帝フェデリコ2世。その孤独と情熱を佐々木蔵之介さんが演じます。天才すぎる父と理解し合えぬ息子ハインリヒ役は上田竜也さん。最大の敵、ローマ教皇に六角精児さん。今に生きる私たちのそばにある「戦争」「平和への願い」──。求めるべき答えを探すきっかけとなる壮大な物語です。

作/阿部修英
演出/東 憲司
出演/佐々木蔵之介、上田竜也、那須 凜、栗原英雄、田中穂先、石原由宇、六角精児 ほか

〔公演情報〕
●東京
2024年8月6日(火)~9月1日(日)
PARCO劇場(渋谷PARCO8階)

●愛知
2024年9月7日(土)・8日(日)
Niterra日本特殊陶業市民会館ビレッジホール

●大阪
2024年9月11日(水)~16日(月・祝)
森ノ宮ピロティホール

●福岡
2024年9月21日(土)・22日(日)
久留米シティプラザ ザ・グランドホール

料金/全席指定1万2000円

お問い合わせ
●チケットに関して/サンライズプロモーション東京:0570(00)3337
●公演に関して/パルコステージ:03(3477)5858 URL:https://stage.parco.jp/

構成・文/阿部修英(NHKBS『パクス・ヒュマーナ』、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』、『中国王朝』、TBS『世界ふしぎ発見!』などの演出、NHK『デザインミュージアムジャパン』『クローズアップ現代』などをプロデュース。2024年9月放送 ドラマ『母の待つ里』(原作・浅田次郎/NHKBS)の企画・監督。舞台『破門フェデリコ~くたばれ! 十字軍~』は戯曲執筆2作目。2024年8月より全国で上演。)

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年08月号

家庭画報 2024年08月号

撮影/藤原亮子 スタイリング/勝見宜人〈Koa Hole inc.〉 ヘア&メイク/晋一朗〈IKEDAYA TOKYO〉 撮影協力/m&m mediaservices

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