クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第364回 ジョン・ケージ『4分33秒』
イラスト/なめきみほ
沈黙は音と同じく音楽の一部である⁉
今日8月29日は、西洋音楽の歴史の中でも最も独創的な作曲家として知られるアメリカの現代作曲家、ジョン・ケージ(1912~92)の『4分33秒』初演日です。
3楽章で構成されるこの曲の楽譜には、4分33秒という演奏時間以外に、演奏者が出す音響の指示はまったくありません。そのため演奏者は音を出さず、聴衆は、演奏場所の内外で偶然に起きる音(騒音・雑音)を聴くという、奇想天外な作品です。
「沈黙とは無音ではなく、意図しない音が起きている状態を指し、楽音と非楽音には違いがない」というケージの主張が表現されたこの作品は、当然ながら賛否両論。1952年8月29日にニューヨーク州ウッドストックで行われた初演においては、初演者であるピアニストのデイヴィッド・チューダーが、ピアノの蓋を閉じることで各楽章の開始を、蓋を開けることで終了を示したといいます。
時折ペダルを踏むなどの行為以外に何もしないことから、時間がたつにつれて客席は騒がしくなり、会場を去ろうとする者もいたそうです。立ち会った人はさぞやびっくりしたことでしょう。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。