【今、この人に会いたい!】柄本 弾さん ※秘蔵フォトギャラリーあり
クラシック・バレエの冬の風物詩として大人気の演目『くるみ割り人形』。チャイコフスキー三大バレエのひとつに数えられ、クリスマス・イブが物語の舞台であることから、クリスマスシーズンに世界中で上演されている傑作です。
今年創設60周年を迎えた国内有数のバレエ団「東京バレエ団」で10年以上プリンシパル(最高位ダンサー)として活躍中の柄本 弾さんに、バレエ『くるみ割り人形』の魅力と見どころについて話を伺いました。
柄本さんが初めてバレエ『くるみ割り人形』の舞台に立ったのは、なんと10歳の時。「兄と姉もクラシック・バレエを習っていて、お教室の発表会で『くるみ割り人形』をやることになり、姉がクララ役を、兄がネズミの王様を、そして僕がくるみ割り人形役をやらせていただきました。いい思い出です」
柄本弾さんの写真を「秘蔵フォトギャラリー」で見る>>くるみ割り王子を演じること
――2024年12月12日から上演されるバレエ『くるみ割り人形』で、2019年以来、5年ぶりにくるみ割り王子を踊られます。 「久しぶりに王子を踊らせていただくので、とても楽しみです。今回上演する『くるみ割り人形』は、5年前に現バレエ団団長の斎藤友佳理さんが新演出・振付をされた版
※1で、当時は新作で初演ということもあり、役を深掘りする余裕があまりありませんでした。でも、この4年間、ドロッセルマイヤーという役をやらせていただき、王子を客観的に見てこられたような気がしています。また、バレエ団には個性豊かで素晴らしいダンサーたちがいるので、間近でいろんなタイプの王子を見ることができましたし、指導にも携わらせていただいた中で気づいたことも多くあり、5年前とは違う王子を演じたいです」
※1……「版」は振付家や演出家が、振付や演出を改訂した「改訂版」のこと。『くるみ割り人形』は1892年にマリインスキー劇場で初演され、台本をマリウス・プティパ、振付をレフ・イワーノフ、音楽をピョートル・チャイコフスキーが手がけ、この初版はイワーノフ版と呼ばれています。――5年前と“違う王子”とは? 「これぞ、“ザ・王子さま”という、ただ立っているだけでかっこいい王子です。僕は『くるみ割り人形』はマーシャ
※2の心の成長物語だと捉えています。少女が王子と出会い、恋をして、愛を知り、大人に一歩近づいていく。『白鳥の湖』のように王子が成長していく物語と異なり、『くるみ割り人形』の場合、王子が登場する頃にはストーリーがほぼ終わっているので(笑)、心の機微を表現するというよりも、マーシャが王子と出会った瞬間、恋に落ちるような存在であることが大事だと考えています。王子はマーシャの成長過程の一端を担うわけですから、キュン!とさせられるぐらいかっこよくないと。普段そういうキャラではなく、王子様とはほど遠いのですが……」
※2……バレエ『くるみ割り人形』の主人公の名前は、バージョンによって「クララ」「マリー」「マーシャ」などと呼ばれ、東京バレエ団では「マーシャ」という名前で登場します。――5年前の柄本さんの王子を拝見しましたが、第1幕のくるみ割り人形が王子の姿になり、マーシャと対面する場面、キュンとさせられた人は多いと思いますよ。「本当ですか? そう思っていただけたなら嬉しいですが、まだまだです。僕だけかもしれませんが、くるみ割り人形のマスクを外して王子の姿になるとき、かっこよく登場したいのに、実は毎回「うわ、眩しい!」って思っています(笑)。照明がピンで当たるので本当に眩しくて。でも、暗かった視界が明るくなるところは、人形から人間になり、見える世界が変わる王子と通じるものはあるのかもしれません。振付も、マスクを着けて人形でいる間は動きに制限がかかっているような踊りで実際に踊りづらいのですが、王子はのびやかな動きの踊りに変わりますし、解放された感じで踊りやすくなりますし。自分の意思で自由に動けるようになり、感情も出せるようになって、喜びを感じているような……。
そんな中、最初に目にするのがマーシャです。兵隊とねずみたちの戦いで、ねずみたちにスリッパを投げつけ、くるみ割り人形を助けてくれた勇敢な少女。キュンとさせようと意識的にやっていることはなく、それらの過程から自然と愛情がわいてくるんです。でも、今回はさらにかっこいい王子を目指すつもりなので、どう演じるかはこれからじっくり考えます」
くるみ割り王子を踊る柄本さん(第1幕第4場より)。本公演の舞台稽古での一幕。