新世代の鍼灸師に訊く 第15回(1)鍼灸院は「未病を予防する」ことから「病気を改善する」ことまで守備範囲が広く、身近な健康アドバイザーとしてもっと活用したい医療施設の一つです。
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更年期から起こりやすいトラブルの予防法・解決法「更年期に伴う気分障害」
松浦知史先生(神保町十河医院附属鍼灸院)

神保町十河医院附属鍼灸院 副院長 松浦知史(まつうら・さとし)先生 1994年、群馬県生まれ。高校3年のとき、鍼灸師である父が肝臓がんを発症。それを契機に鍼灸師を志す。東京有明医療大学を卒業後、福島県立医科大学会津医療センターで初期研修を受ける。修了後、埼玉医科大学病院、同大学かわごえクリニックで勤務。同大学東洋医学科研究員を経て2019年より現職。
最新研究から標準治療と効果を把握したうえで個々の症状をよく見極めて最良の鍼灸治療を施す
神保町十河医院附属鍼灸院は、漢方内科を標榜するクリニックに併設された鍼灸院です。群馬県高崎市にある本院の大慈松浦鍼灸院とともに「診鍼連携」に力を入れています。
副院長の松浦知史先生は、大学卒業後、鍼灸治療を積極的に取り入れる福島県立医科大学会津医療センターや埼玉医科大学病院で臨床経験を積み、疾患だけでなく病院診療業務についても理解を深めてきました。このような経験と知識を生かし、患者さんが鍼灸治療を希望する際には、かかりつけ医と連携しながらよりよい統合医療を提供できるよう鍼灸院の診療体制を整えています。
2つの鍼灸院の院長を務める父・良民先生と。松浦先生が鍼灸師の道を志す決意をくれた大切な存在だ。元気になって今も活躍している父の臨床経験や知見から学ぶことも多い。
定型の治療法はないため柔軟に対応することが重要に
松浦先生が得意とするのは産婦人科領域と精神科領域の疾患です。
「当院を受診される患者さんは30~60代の女性が中心で、必然的に更年期症状に対応することも多いです」。
そのうち過半数の人は肩こりやホットフラッシュ、のぼせといった身体症状にイライラ、抑うつ、不眠などの精神症状を合併しているといいます。また、婦人科や精神科に通院しながら鍼灸治療を希望する場合もあり、症状の軽減だけでなく減薬を目的とすることも少なくありません。
東洋医学的診察法(四診)を駆使して患者の状態を確認。
「中国最古の医学書には、女性は7の倍数の年齢を節目に体が変化し、49歳では腎の精気が衰え、天癸(てんき)が尽きると書かれています。東洋医学の五臓六腑のうち腎の働きはエストロゲン分泌の推移と一致しており、更年期症状の根底には腎の働きの低下があると考えられています」。
また、“肝腎同源”という言葉が示すように腎の働きは肝の働きにも影響します。互いにフィードバックしながら助け合う関係にあるため、腎が低下すると肝の疏泄(そせつ)(全身の気や血流の巡り)が滞り、イライラや抑うつ、憂うつなどの精神症状を引き起こすとされています。
このような東洋医学的解釈がある中、松浦先生は更年期に伴う気分障害を治療する際には、特定の流派にこだわらず、その人の状態や症状をよく見極めて最良の鍼灸治療を施すことを信条としています。
「更年期症状は心身に多彩に出現し、しかも消長を繰り返して常に一定ではありません。ゆえに定型の治療法はなく、その時々で柔軟に対応することが極めて重要なのです」。
治療法を検討するときは頭の中をフラットな状態にして現代鍼灸、中医鍼灸、日本伝統鍼灸など自分が学んできた鍼灸治療の中からあらゆる可能性を考え、ベストな方法を導き出すことを心がけています。
「同時に最新の研究も参考にしています。どのようなコンセンサスのもと標準的な鍼灸治療が定められ、治療効果はどの程度あるのかということを把握するのは大切です。これらの知見が提供する治療の裏づけになることもしばしばあります」
鍼の刺激で腎の働きを補い、肝の疏泄(巡り)を整える
治療は鍼が基本で、非常に細い鍼を使って経穴(ツボ)を刺激します。目的によって刺激量をコントロールし、自律神経や免疫機能を整えるときは鍼を浅く刺し、背中の過緊張をとったり血流をよくしたりするときは深く刺します。
「よく使う経穴は、足三里、三陰交、四関穴(合谷〈ごうこく〉・太衝〈たいしょう〉)、気海(きかい)、中脘(ちゅうかん)などです。これらを刺激することで腎の働きを補うとともに肝の疏泄の働きを整えます」。
下腹部にある腎気が集まるとされる「気海(きかい)」に鍼を打つことも多い。
また、灸を使って治療効果を高めることもあります。イライラ、のぼせ、ホットフラッシュなどがみられ、緊張が強い人には背骨上にある督脈の大椎(だいつい)、身柱(しんちゅう)、霊台(れいだい)、筋縮の経穴に灸をすると、ふわっと症状が抜けていくそうです。
精神活動を支える肝血を支配する「太衝(たいしょう)」に鍼を打ち、その周囲を灸で温めることで気血の巡りが整い、気持ちが落ち着く。
「患者さんの希望や状態によっては漢方内科医や精神科医と連携して治療にあたることもあります。心身両面からトータルにアプローチできる鍼灸治療は、更年期に伴う気分障害の治療にも適しています。お困りのときは、鍼灸を併用することをぜひ検討してみてください」
診療案内
東京都千代田区神田神保町1-7-15 源興號ビル4階
TEL:080-1363-9712 予約制
診療時間/月曜~土曜 9時~19時(最終受付18時)
休診日/日曜・祝日
診療費/5000円
大慈松浦鍼灸院群馬県高崎市井野町88-2
https://www.toyo-matsuura.com/※次回へ続く。
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