【今、この人に会いたい!】小林厚子さん ※チケットプレゼントあり
日本人なら誰もが一度は耳にしたことのある、ジャコモ・プッチーニ作曲のオペラ『蝶々夫人』。明治時代の長崎を舞台に、芸者・蝶々さんの悲恋が描かれた不朽の名作です。
この『蝶々夫人』が、5月14~24日、新国立劇場で上演されます。タイトルロールを務めるのは、ドラマティックな歌声と表現、圧巻のソプラノに定評があり、いま日本でもっとも注目を集めるソプラノ歌手のひとり、小林厚子さん。『蝶々夫人』の魅力や聴きどころについて、小林さんにお話を伺いました。
新国立劇場ホワイエにて。
イマジネーションを膨らませてくれる新国立劇場の舞台
――5月14日から新国立劇場で上演されるオペラ『蝶々夫人』でタイトルロールを務められます。意外にも新国立劇場での本公演では初めてだそうですね。新国立劇場の『蝶々夫人』は、「高校生のためのオペラ鑑賞教室」(以下、高校生公演)において2年間ほど務めさせていただきましたが、本公演は初めてなのでとても楽しみにしています。
新国立劇場には、2008年のヴェルディ『アイーダ』のアイーダ役カヴァー(※1)で初めて参加させていただき、それ以降、さまざまな役のカヴァー、そしてピンチヒッターとして実際に舞台に立つ機会をいただきました。たくさんの素晴らしい経験を積ませていただき、新国立劇場に育てていただいたと感謝しています。ですから、その劇場の本公演のタイトルロールとしてオファーを頂戴し、感無量です。
ただ、感無量というのは、私、“小林厚子”個人の思いであって、大切なのは、劇場に足を運んでくださったお客さまに、この素晴らしいオペラをいかに伝えられるかです。今回の新国立劇場『蝶々夫人』チームのひとりとして、蝶々さんという役を全うできるよう、作品としっかり向き合って参ります。
※1……メインキャストに不測の事態が発生した場合、代役として本番の舞台で歌う人たちのこと。「カヴァーキャスト」とも言われます。――藤原歌劇団をはじめ、さまざまな劇場で蝶々夫人を演じられてきましたが、新国立劇場ならではの違いはありますか?『蝶々夫人』は、所属する藤原歌劇団と、新国立劇場の高校生公演がもっとも多く歌わせていただいたプロダクションです。藤原歌劇団は日本家屋や日本庭園、桜の木などリアルな舞台美術が特徴的なのに対し、新国立劇場の舞台美術は抽象的でモダンな感じで、まったく違います。それに伴い、おのずと表現や動きも変わってきます。例えば、ここに椅子があって、花瓶があって、お座布団があって……というように、道具が多ければ多いほど、動きは自然と決まってきます。
新国立劇場の場合は小道具が少ないので、そのぶん自由に動けるように感じますね。とはいっても、好き勝手に動いていいということではないので(笑)、“イマジネーションが膨らむ”というほうが近いかもしれません。具象的な舞台美術と抽象的な舞台美術、それぞれに良さがあり、両方で歌う機会に恵まれたのは幸せなことだと感じています。
新国立劇場「蝶々夫人」2019年オペラ鑑賞教室公演より 撮影:寺司正彦
蝶々夫人を演じるということ
――2007年に藤原歌劇団の『蝶々夫人』でロールデビューをされました。抜擢されたときはどのようなお気持ちでしたか。2006年の藤原歌劇団『蝶々夫人』の公演ではピンカートンのアメリカ人妻であるケートを演じていたのですが、千秋楽の日に、自分の出番を終え蝶々さんのラストシーンを袖からそっと観ていましたら、隣にいらした当時の総監督から「次だぞ」と言われまして、一瞬何のことやら、ポカンとしてしまいました。そのあと正式にオファーをいただいたのですが……震えましたね(笑)。藤原歌劇団に入団以来、何度か演じてきたケートとして、歴代の素晴らしい蝶々さん達と一緒に舞台を踏ませていただいたことは、私の大切な財産となっています。
――初日を迎えられたときはどのような心境でしたか。もう無我夢中でしたね。歌い終わったときには、安堵と共に私の中で何かが変わった感覚がしたことを覚えています。私のレパートリーの中では、『蝶々夫人』の蝶々さんが断トツで歌う量も多いですし、登場から最後まで出ずっぱりで、ほかのオペラが短く感じるぐらい大変な作品です。私は本当に役目を果たせるのだろうか?という不安と戦いながら稽古をしていましたね。
また、衣裳が着物なので、所作や演技は特にたくさん稽古をつけていただきました。世界には蝶々さんがドレスを着るような演出もあるのですが、藤原歌劇団も今回の新国立劇場も着物なので、歌唱はもちろん、ほかの要素も大事になってきます。
新国立劇場「蝶々夫人」2019年オペラ鑑賞教室公演より 撮影:寺司正彦
――演じるうえで、心がけていること、工夫されていることはありますか。役への私自身の思い入れが強くなりすぎないようにと心がけています。私の場合は、入り込みすぎたり、好きすぎたりすると、力んで空回りしてしまう気がするんです。舞台の上にいるのは、“小林厚子”ではなく、あくまでも“蝶々さん”なので、蝶々さんとして生き、感じ、蝶々さんとして死んでいく――ということを肝に銘じています。
――蝶々夫人と通ずる部分はありますか?どうでしょうね……。蝶々さんのイメージは人それぞれですが、私はとっても生き生きとしたチャーミングな人だと思っています。原作にはちょっとユーモアもあるような描写がありますし。蝶々さんって出てくるとずっとお喋りしていますよね。テキストを追ってみると、とりとめのないことを言ってみたり、急に全然違う話をしたり。その唐突な言動は、気持ちと裏腹なものからだとも思ってはいるのですが……。そこに潜む数パーセントの生来の唐突さは、話がしょっちゅう飛ぶ私と似ているかもしれません。私も、たぶん蝶々さんも(!)、自分の中ではちゃんとつながっているんですが……。私、蝶々さんはB型だと思っています。私もB型なんです……。
――蝶々夫人がB型! ユニークな解釈ですね(笑)。あくまでも私の解釈です(笑)。10年来、そう思ってきましたが、ひょっとしたら明日は考えが変わるかもしれません。B型なので(笑)。
新国立劇場「蝶々夫人」2019年オペラ鑑賞教室公演より 撮影:寺司正彦
身体の変化の中で見出したもの
――蝶々夫人を演じられてから約18年、変わってきたことはありますか。もう18年……! そんなに経ちましたか(笑)! 自分では変えようと思って演じたことはないのですが、思考は年齢とともに変わってきた部分もあれば変わらず同じ部分もあり、また、その時々の自分の状況や、共演者、スタッフの方々、マエストロ、オーケストラ……一度として同じことはないので、自然とずっと変化し続けているという感覚です。例えば、演者が違えば、スズキやピンカートンから受け取るものも、こちらから渡すものもまったく異なります。さらに、稽古を積み重ねていくうちに、二人の間にできる空気感みたいなものも変化していくので、毎回新たな発見と驚きの連続です。
その中で、いちばん変化していると感じるのは、やはり自分の身体でしょうか。歌は身体が楽器なので、身体が変われば歌も変わっていきますから。
――身体の変化をコントロールするために努力していることは?簡単なストレッチはいたしますが、歌いながら身体を整えていくようにしています。歌っていると、「ここの筋肉が足りないな」と感じることがあり、そこを重点的に練習したり。コンピューターのように、頻繁にアップデートしていかないと、あらゆる部分の筋肉が衰えていくので、この新しい(歌唱の)技術を試してみようとか、以前はここに注力していたけど今度はこっちを気をつけてみようかとか、日々試行錯誤ですね。
年齢を重ねるにつれて、技術の大切さを身をもって感じています。「わたし」という楽器と向き合う毎日です。
――そのような努力やお考えがあるからこそ、小林さんのあの繊細でありながらも最後までのびやかさと迫力のあるアリア《ある晴れた日に》が生まれるのですね。蝶々さんという役は、体力的にも精神的にも相当にタフでなければなりません。すべての言葉を、丁寧に、生き生きと紡いでいけるよう、心と身体の健康が大切ですね。
新国立劇場ホワイエにて。
プッチーニ、イタリア・オペラ、蝶々夫人――それぞれの魅力
――ヴェルディ、ベッリーニ、ロッシーニ、ドニゼッティなど、数多いるオペラの作曲家の中で、プッチーニの特徴はどのようなところにありますか。時代も違いますが、やはりスタイルが違うというところでしょうか。一概には言えないのですが、ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティ、ヴェルディなどの作品よりも、プッチーニは楽譜への書き込みがとても多いんです。『蝶々夫人』もそうです。調も拍子も速度もどんどん変わっていきます。さらに演技や舞台に関するト書きも本当に細かく書いてあって。他の作曲家に比べても、プッチーニはひときわ総合プロデューサー的な感じがします。音楽のことだけではなく、プッチーニは頭の中で舞台全体、物語全体をある時は俯瞰しながら、またある時は自分が登場人物になりながら、作品を紡いだのだろうと想像しています。だから、言葉と音楽と舞台全体が融合したあの素晴らしい作品の数々が生まれたのだと思います。
――イタリア・オペラの魅力は?まず声でしょうか。イタリア・オペラの魅力のひとつは何と言っても声の芸術という点です。今の時代、インターネットやスマートフォンなどいろいろなツールで観ることも聴くこともできるのですが、人間の声を、楽器の音を、劇場で聴くとその違いは歴然です。劇場では、耳や眼からだけではなく、肌で音を感じます。舞台に上がっている出演者だけでなく、客席の皆様も、劇場の中にいる全ての人の人間の五感がフルに働きだす公演は、忘れられないものになりますね。イタリアものは、音の伝わり方が特にダイレクトな感じがします。
――その中で『蝶々夫人』の観どころ、聴きどころがあれば教えてください。私たち出演者からすれば、『蝶々夫人』はとにかくすべてが聴きどころ、観どころなのです。私自身が音楽を聴いたり、オペラや歌舞伎を観たりするときは、その時々の自分の心情や状況によって、感じる部分、引き込まれる部分、人物に共感する部分が異なります。そんな風に、劇場に足を運んでくださったお客様がそれぞれの観どころを見つけてくださればとても嬉しいです。そしてこの『蝶々夫人』は誰もが共感できる部分が多く詰まった作品です。蝶々さんはもちろん、スズキ、ピンカートン、ケートなどなど、個性豊かな人物がたくさん登場しますので、きっと何かしら感じ得るものがあるのではないかと思っています。
――最後に、家庭画報ドットコムの読者にメッセージをお願いします!新国立劇場は、出演者だけでなく、その裏で支えてくださっているチームも本当に素晴らしい劇場です。照明、メイク、オーケストラ、演出・音楽スタッフ、制作……毎回、チーム一丸となり、それぞれの役割をプロフェッショナルに果たし舞台を創り上げていきます。すでにご覧になったことがある方も、まだ観られたことがないという方も、ぜひ劇場にいらして、この舞台を体感なさってください!
小林厚子/こばやし・あつこ東京藝術大学大学院オペラ科修了。文化庁在外派遣によりイタリアにて研修。藤原歌劇団『蝶々夫人』でタイトルロールデビュー。『フランチェスカ・ダ・リミニ』フランチェスカ、『マクベス』マクベス夫人、『アイーダ』『蝶々夫人』『トスカ』タイトルロールなどに出演。コンサート(演奏会形式)において『イェヌーファ』、『第九』、『レクイエム』『オテロ』などでも活躍。新国立劇場では2018年新国立劇場『トスカ』の千秋楽公演にて急遽タイトルロールの代役を務めたほか、21年『ワルキューレ』ジークリンデ、『ドン・カルロ』エリザベッタに出演し、高い評価を得た。高校生のためのオペラ鑑賞教室『蝶々夫人』『トスカ』タイトルロールにも出演。藤原歌劇団団員。
新国立劇場 2024/2025 シーズンオペラ プッチーニ『蝶々夫人』全 2 幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
新国立劇場「蝶々夫人」2019年オペラ鑑賞教室公演より 撮影:寺司正彦
【公演日程】 2025年5月14日(水)18:30/17日(土)14:00/21日(水)14:00/24日(土)14:00 全 4 公演
【会場】新国立劇場 オペラパレス
【チケット料金】 S席2万6400 円 A席2万2000 円 B席1万5400 円 C席9900 円 D席6600 円 Z席1650 円
※予定上演時間 約 2 時間 40 分(休憩含む)
公演情報 WEB サイト
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/madamabutterfly/【チケット予約・お問い合わせ】
新国立劇場ボックスオフィス 電話03-5352-9999(10:00~18:00)
新国立劇場Webボックスオフィス
https://nntt.pia.jp/
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