この2月、歌舞伎座で開催される、松竹創業百三十周年「猿若祭二月大歌舞伎」。寛永元(1624)年に初代猿若(中村)勘三郎が江戸で初めて歌舞伎の興行を行ったことを記念する公演です。昼の部『きらら浮世伝』、夜の部『人情噺文七元結』に出演する中村勘九郎さん・中村七之助さんに、江戸を生きる人々を演じる想いを伺いました。
※中村七之助さんは夜の部『江島生島』にも出演ディテールの積み重ねで生み出す“江戸のにおい”
昼の部で上演される『きらら浮世伝』は、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』でも話題の蔦屋重三郎と、同時代に生きた仲間たちを描いた物語。昭和63(1988)年に東京・銀座セゾン劇場でお二人のお父様である十八世中村勘三郎さん(当時五代目勘九郎)が主演した作品が、歌舞伎として甦ります。
勘九郎さん「才能あふれる戯作者や絵師が江戸の町で面白おかしく必死に生きていた時代の青春群像劇です。僕が演じる蔦屋重三郎は、彼らを見出す眼力やプロデュース力に長けていた一方で、反骨精神もあわせ持つ人物です」
七之助さん「世の中が平和になって庶民も娯楽に手が届くようになり、文化が花開いた豊かな時代。楽しかっただろうなと思います。僕がつとめさせていただくお篠は、吉原の遊女。若き日の蔦重(蔦屋重三郎)と出会い、彼からもらった絵草子が生きる支えになっていきます」
©️松竹
明治維新から150年以上の時が経ち、現代を生きる私たちにとっては、歌舞伎作品を通して江戸時代の人々の姿に触れることも少なくありません。
勘九郎さん「祖父(十七世中村勘三郎さん)が若い頃には、江戸時代生まれの方がまだ周囲にたくさんいたのですよね。それでも祖父は先輩方から“(リアルな江戸を知らない)お前たちは可哀想だ”と言われていたと聞いています。それからさらに何十年も経ってしまった我々の世代が“江戸のにおい”を表現するには、世話物の芝居で経験したことの引き出しをちょっとずつあけて演じていくしかありません。たとえば、鳶の頭だったら草履はつっかけるように履くのが粋だとか、職人と武士ではキセルの持ち方がどう違うとか、教えられていたことの細かな積み重ねで江戸の風情を感じていただけたら」
七之助さん「『人情噺文七元結』には“敷居が鴨居になっちまった”という台詞があり古い記録映像を観るとお客様がそこで爆笑されているのですが、畳のない家に住んでいる今の人には通じないギャグかもしれません。昔の名人の落語を聞いたり世話物の勉強を重ねることで、次の世代に引き継いでいかなければと思っています」