春分〜きものへの目覚め【連載・村雨辰剛の二十四節気暮らし】

村雨辰剛の二十四節気暮らし
庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。

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春分～きものへの目覚め

光沢の美しい柳染の大島紬のアップ。

春分といえば、昼と夜の長さが同じ日。この日から夜よりも昼が長くなる、目覚めの季節の到来です。前回は虫干しについてご紹介しましたが、今日は僕が着ているきもののストーリーを是非ご紹介させてください。

これは「銀座もとじ」で誂えた柳染の大島紬で、僕が初めて自分の寸法で誂えたきものです。この大島紬に惹かれた理由のひとつに、「銀座もとじ」の柳染のエピソードがあります。

村雨さんは大切にしているきものをそっと取り出します。

「きものに柳の命の輝きが宿っていると思うと、淡い色彩がひとしお愛おしく感じられます」と村雨さん。

まだお店が銀座一丁目にあった約30年前の浅春に、店主の泉二弘明さん（現・会長）がふと空を見上げると、初々しい黄緑色の柳の新芽が、風に揺られながらキラキラと輝いていたそうです。その美しさに心を打たれ発案したのが、柳の命をきものに託した「銀座の柳染」。泉二さんは、毎年初夏に枝打ちされ廃棄されてしまう銀座の柳を、行政にかけあって回収し、作り手とともに試行錯誤を繰り返しながら美しい色へと辿り着いたのだといいます。


泉二さんが柳に特別な思いを託したように、僕も自分のために大島紬を誂えたことで、日本への思いが一層深まりました。まさに、きものの魅力に目覚めた節目のきものといえます。

階段簞笥のようにみえるように同系色で統一。一番右の2段の引き出しにきものまわりのアイテムを収めて。

僕にとって、もう一つの節目のアイテムはこの簞笥です。まだ愛知で庭師の修業をしていた頃に見つけた大正時代の簞笥で、金具の文様が松竹梅になっています。写真に写っていないもう一棹はテレビ台として活躍しています。実はきものを二つ折りで収めるには少しだけ幅が狭いのですが、何よりも細工の美しさに惹かれました。簞笥の中にはまだ大島紬と羽織くらいしか入っていませんが、これから人生の節目に一枚ずつきものを誂えていけたらと思っています。

写真は松と竹の細工。梅があしらわれた引き出しはテレビ台として使っています。

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村雨さんが見つけた二十四節気

左・長い花穂に愛らしい黄色の花をつけるヒイラギナンテンの蕾を見つけた村雨さん。「春を感じて思わず写真を撮ってしまいました」。右・春分を境に、夏至に向けて昼間の時間が長くなります。「この連載を始めた頃より、日の出の時間がぐっと早くなり、気持ちまで明るくなります」と、ロケ先の山間で写した早朝の空の写真が届きました。

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村雨辰剛（むらさめ たつまさ）
1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。