プログラムを作り上げていく過程ではダイスケにとって初めてのことばかりだったので、最初は戸惑っている様子も見受けられました。
しかし、数日後には、私がどのように表現してほしいのかを完璧に理解してくれました。このプログラムは、例えると「至高のサラダ」のようなもの。
構成する1つ1つの材料が大変素晴らしいのです。プログラムを考える際には、私は目を閉じ、氷上のダイスケを思い浮かべ、自らの心が動くままに想像を巡らすところから始めました。
そこで生まれたアイディアを元に、私自身の感情や言葉を組み合わせていったのですが、その制作過程はとても自然なものでした。このプログラムではフィーリング、つまり、お互いに何を感じるかということを大事にしました。
私はフランス人でダイスケは日本人です。この2か国の文化の融合というのは、非常に興味深いと思います。
私自身は数限りない欧米のパフォーマンスを目にしているので、たいていのことには驚かないのですが、ダイスケのスケーティングの質が日々良くなっていったのには、ビックリしました。
例えると自転車にしばらく乗っていなければ、昔のことを思い出して乗りこなすのにちょっと時間がかかりますが、ダイスケの滑りもそのような感じでした。
しかし、そのスピードはとても早く、スケーティングを重ねるごとに、どんどん上達しました。そして国際大会で戦い、これまで以上の演技ができる域まで来ています。彼と一緒に次の目標にチャレンジできることが、本当に楽しみです。
ブノワ・リショー(振付師)1988年1月16日生まれ。フランス出身のアイスダンスのフィギュアスケーター。現在30歳のブノワ氏が引退したのは2009年。その後しばらく音楽や衣装デザインなどに携わったのち、デニス・ヴァシリエフス選手からの依頼をきっかけに、2014/15シーズンに振付師としてフィギュアスケート界へカムバック。坂本花織選手の2017/18シーズンのFS(フリースケーティング)である「アメリ」の振り付けを髙橋選手が気に入ったことから、今季プログラムの実現につながった。近畿選手権にも訪れていたブノワ氏のすぐ近くにいたが、髙橋選手の演技を瞬きもぜず見つめている姿が印象的だった。試合の翌々日に2人で一緒に若干の手直しをして西日本選手権に臨み、見事に優勝を飾った。
リンクを離れると、この表情。フィギュアスケートを心から楽しんでいる髙橋選手がいました。 アイスダンスご出身の振付師お2人から愛される“氷上のパフォーマー”髙橋大輔選手。シェイ=リーン・ボーンさん、ブノワ・リショーさんの真摯な想い、胸に響きますよね……。
髙橋大輔選手のプログラムにはどれ一つとして、同じ作品がありません。そのどれもが完璧に別世界になっています。
個々が際立った作品を滑り分けることができ、演じ分けることができる稀有な才能を持ったスケーター。全日本選手権で再び髙橋選手のスケーティングが見られることに感謝しつつ、納得いく演技ができるよう祈っています。
小松庸子/Yoko Komatsu
フリー編集者・ライター
世界文化社在籍時は「家庭画報」読み物&特別テーマ班副編集長としてフィギュアスケート特集などを担当。フリー転身後もフィギュアスケートや将棋、俳優、体操などのジャンルで、人物アプローチの特集を企画、取材している。
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