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曽野綾子 × 五木寛之【特別対談】これからの時代を生きる

2020.12.17

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これからの時代を生きる 曽野綾子(作家)+五木寛之(作家)フォーシーズンズホテル東京大手町にて。

五木 しかしこの状況がもしも2年、3年……と続いていくとなると。また何かしら新しい変化は出てくるのでしょうが。

曽野 先は誰にもわからないから、人によってはオポチュニスト(日和見主義)的になって、時をみて、意識的に乗っかっていくこともありではないかと思います。戦後もそういう生き方はありました。つんのめって、抵抗していくのもひとつの在り方だと思うけれど、流れて乗っていくのもありです。選択は個々、自由であっていい。


五木 オポチュニズムに見えるかもしれないけど、それは柔軟な、しなやかな生き方かもしれませんね。時代に流されるという意味ではなくて、自分から乗っていくという。

曽野 自身の運命として、受け入れていくということでしょうね。私はあんまり、そういう姿勢になれないけど。

五木 これは仏教的な発想ですが、「時機相応(じきそうおう)」という言葉があるんです。12から13世紀、天災、飢饉、津波、内戦……と、このコロナと同じような状況があった。その時代に浄土宗を開いた法然の姿勢です。機(根)、教(義)、時(期)といって、ひとつの時代、思想を、その時代、時代に合わせて、理解していかなくてはならないという考え方なのです。難しい修行なんぞしなくていい、こんな大変な時代にそんなことはできないのだという考え方。このコロナの時代には大事かもしれません。

曽野 大丈夫よ。私はそんな上等な認識ができないから。そのためには、個としての人間を見抜くという力も要るんですね。自分にとってのある判断が、相手には適応できないことがある、相手にも相手の判断がある。それが何かはわからなくても推測する力、違和感に耐えるという力がいると思います。ひとりひとりが違うはずで、そこから始めないと。

五木 そこが難しいんですよね。これから、私たちの生活はどう変わっていくとお考えですか。

曽野 私自身は変わらないでしょうね。もう年も年だからそんなに変わる力もないですしね。たとえば私は料理を作ることが好きで、これは健康であるうちは続けます。野菜を煮炊きするだけの、昔ながらの素朴な料理ですけどね。家の小さな畑で育てた野菜を抜いてきて、命のみずみずしいうちに茹でるとかね。そういう些細な事が、私にとっては大切でうれしいのです。

五木 自然と共に暮らす。うらやましいですね。料理は頭も使いますしね。僕はこれからの社会は今までのように消費に費やしてきた構図が、あらゆる面で変わっていくと思っています。ひとつにはガソリンも電気に、食品もたとえば人造肉などができてくるでしょう。あれもこれもと貪欲に求めてきたことが、もはや変わらざるをえないというか。

曽野 私からすればあれもこれもやりたいことができなくなった、というのはむしろ贅沢なことなんです。自分が今、持っているものを理解していらっしゃらない、持っている幸せのようなものに気づかないのではないでしょうか、今の人は。常にもっといいもの、もっと見栄えがするものと、まわりと比べている。わかりやすく言えば、どこそこの特別な会員倶楽部に入ることを、ステイタスのように思う方たちがいる。私はそういうことを希んだこともあまりないし、幸せには結びつかない。それよりも美味しいさつま芋をおやつに出されることの方が、ずっと幸せ(笑)。

五木 そういう考えは、やはり信仰と関係があるのでしょうか。

曽野 あるかと思います。修道院という禁欲的な生き方を知っただけでも、私はよかったと思っています。修道女になるために二度と祖国に帰らないという人もいた。その覚悟は何だろうと考えると、やはり自らの意志で選び取るということだと思うんですね。持てるものを捨てる力というのは、凄いことです。

五木 捨てる力というのは、確かに強く内包している何かがあるだろうと思いますね。この、時代の端境期に大事なことかもしれません。
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