映画『木と市長と文化会館/または七つの偶然』に着想を得たという映画『冬時間のパリ』を手がけたオリヴィエ・アサイヤス監督。『夏時間の庭』や『アクトレス 女たちの舞台』、『パーソナル・ショッパー』などで知られるフランスの巨匠、オリヴィエ・アサイヤス監督が「互いの関係に新たな意義を見出し、受け入れ合う夫婦を語りたいと思った」という新作『冬時間のパリ』。夫婦を演じるのは、是枝裕和監督作『真実』への出演も記憶に新しいジュリエット・ビノシュとギョーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュとノラ・ハムザウェイ。フランスの出版業界を舞台にした、2組の夫婦の愛の行方は……。
——出版業界を舞台に夫婦を語る。それをコメディタッチで描いた狙いは、どこにあったのでしょう。
「今回は、デジタル化であるとか、ちょっと抽象的な概念みたいなことを問題提起しています。それを、観客に考えてもらいたい。そういう映画でもあるんです。だから、語り口を真面目にしてしまったり、テクニック的な用語を駆使してしまったら、なかなか観客の方がアクセスしにくいと思うんですね。少しおかしみのあるコミカルなトーンで語るほうが、きっと“これは自分たちの問題だな”と観客が考えてくれるのではないかと思ったんです」
——アサイヤス監督は、元編集者でもあります。ご自身は、出版界のデジタル化をどう受け止めていますか?
「紙の本で読むのも電子書籍で読むのも、どれくらいの違いがあるかといえば、そんなにないかもしれないとは思うんですよね。でも、新しいテクノロジー、デジタル化が様々ある中で、受け入れられているものもあるのにもかかわらず、電子書籍には多少の抵抗があるというのは、ほかの分野に比べても根が深いのでは……。だからこそ、全世界の傾向を見ても、電子書籍がどんどん市場を席巻していくかというと、そうではなくて。それは、僕のように違和感を覚えている人が多くいるってことじゃないかなと思います」