是枝監督は、本作を「まっすぐに命と向き合い、登場人物の姿を借りて、自分の声をまっすぐに届けようと思った作品です」と語る。電気を消したのは、是枝監督が恥ずかしかったから!?
こうのとりのゆりかごの設置が申請されたとき、賛否どちらもの声が上がりました。
「この映画の中でも、最初にスジンが“捨てるなら産むなよ”と言い放っています。そこから2時間で、スジンが自分の言葉からどのくらい遠くへ、その価値観を変えられるかというのがこの映画の縦軸です。(赤ちゃんポストに否定的な方たちにとっても)見終わったときに少しだけ何かが変化するような映画になったんじゃないかなと思います」
本作の準備を進める中で、施設で育った子どもたちの話を聞いた是枝監督。そこで、「自分の生を肯定できずに大人になっていく子どもたちがいるということ」にショックを受けたといいます。そして、「生まれてきてよかったのか確信が持てないまま育つというのは、想像を絶するつらさだと思うんですよね。本人の責任じゃないのに。社会の側にいる大人の責任なんだから。今回は、そういう子どもたちに向けて映画を作ろうと思いました」。
本作では、是枝監督のメッセージが役者の口からセリフとして語られています。これほどストレートに是枝監督が思いを伝えるのは、「珍しいですね」。だから、そのシーンでは「電気を消しました。恥ずかしくないように」と言葉を笑いに包んだ是枝監督ですが、その奥には「暗闇にしたことで、登場人物それぞれの“母親の言葉”になったと思います」という意図がありました。
赤ちゃんポストから連れ去った赤ちゃんを売る。できるだけ高く。それを目的に旅に出たベイビー・ブローカーとそれを追う刑事。旅をする中で、彼・彼女らが望むようになったことは? そして、養父母になろうとした夫婦から伝えられ、ソヨンがこんな夫婦にウソンを育ててほしいと感じた言葉は……。
開設から15年を迎えたこうのとりのゆりかご。2020年度までに預けられた子どもは159人。その159人の一人目、当時3歳だった幼児は今年18歳になり、その後を語りました。その中でこう話しています。「159人の命は守られた」。
是枝裕和/Hirokazu Koreeda
映画監督
1962年6月6日生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、テレビ番組の制作会社を経て独立し、制作者集団「分福」を立ち上げる。95年、映画監督デビュー作『幻の光』で第52回ヴェネチア国際映画祭金のオゼッラ賞を受賞して以降、様々な作品で国内外の映画賞に輝く。近年の主な監督作に『三度目の殺人』、『万引き家族』、『真実(原題:La Vérité)』などがある。
『ベイビー・ブローカー』
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン ぺ・ドゥナ イ・ジウン イ・ジュヨン
配給:ギャガ
2022年6月24日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
公式サイト
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