- TOP
- きものチンプンカンプン
- 大切なきものにシミつけてしまった阿川佐和子さん。悉皆屋の染み抜き職人の元へ
阿川さんが教えていただいた応急処置を、ここでもう一度おさらいします。
ご教授くださった「きもの工房 扇屋」の店主で、一級染色補正技能士の家田貴之さんによると、食べ物の場合、油性と水溶性の2種類に大きく分けられるそうです。
「油性はオリーブオイルやドレッシングなど、水溶性は醬油やジュース、ワインなど。阿川さんのエピソードにあった生クリームは、油性と水溶性の両方の要素があります」と家田さん。まずは、それぞれの対処方法をご覧ください。
3)それでも、まだ汚れが目立つようなら、裏側に乾いたティッシュをおいたまま、濡らしたティッシュやおしぼりでそっと押さえます。そのあと、再び乾いたティッシュで水分を優しく吸い取ります。擦ったり、叩いてしまうときもの地を傷める原因になるため厳禁。
4)このまま自然乾燥。ドライヤーやスチームアイロンなどの熱を当てると、70度以上で生クリームのタンパク質が固まるため、ドライヤーを用いるときは冷風を当てることが大前提。
●醤油の場合(水溶性)
1)裏側に乾いたティッシュやナプキンを当てて、裏表から優しく押さえます。
2)表地のシミを、裏に当て布として置いたティッシュやナプキンに吸い取らせる感覚で、2〜3度押し当てる工程を繰り返します。向かって左は裏に置いた当て布。押さえるだけでこれほど裏側へ浸透します。白ワインや色素のないジュースなどは、このまま自然乾燥させるだけで、シミがほぼ目立たなくなります。
3)うっすらと醬油の輪ジミが目立つ場合、生クリームのときと同様に裏側に乾いたティッシュをおいたまま、濡らしたティッシュやおしぼりでそっと押さえます。ただし、赤ワインをはじめお茶や果物など、色素を含む食品は、色素を除去する作業が難しいため、無理に薄くなるまで粘らないことも大切。
4)この応急処置だけで、淡い色のきものでも、ここまで目立たなくなります。
どちらのケースも、どんなに汚れが目立たなくなったとしても、今回ご紹介した工程はあくまでも応急処置です。シミが完全に落ちたわけではないため、早めにプロの手に委ねてシミ抜きすることをお忘れなく。
その際の留意点として「白ワインや日本酒、水などはシミの位置がわからなくなるため、どこに飲み物などをこぼしたか写真に撮っておくと、プロの処置もスムーズに運びます」と家田さん。
さらに、多くの人が集う立食パーティなどでは「ご自身は気をつけていても、周囲から不意に貰い事故をすることも。そういうシーンでは、防水加工を施したきものを着ることをおすすめします」というアドバイスもいただきました。
次回は、女性なら誰でも経験がある、衿もとのファンデーションの汚れの対処について伺います。
阿川佐和子(あがわ・さわこ)©Akinori Ito
作家・エッセイスト 1953年東京生まれ。大学卒業後、テレビ番組でのリポーターを機に、報道番組でのキャスターや司会を務める。映画やドラマに出演するなど女優としても活躍。『週刊文春』(文藝春秋)では対談「阿川佐和子のこの人に会いたい」を、『婦人公論』(中央公論新社)、『波』(新潮社)他では多くのエッセイを連載。テレビ朝日系列『ビートたけしのTVタックル』にレギュラー出演中。『話す力 心をつかむ44のヒント』(文春新書)他、著書多数。
撮影/西山 航(本誌) 構成・取材/樺澤貴子