息子が書き残した愛情溢れる父・柴三郎の素顔
英郎さんが、柴三郎博士の次男でご自身の祖父にあたる北里善次郎さんが父の思い出を綴った貴重な寄稿文を見せてくれました。
そこには、待ち合わせ場所で小一時間も前から息子たちの到着を待ちわびる子煩悩な父の姿など、知られざる博士の素顔が描かれていて驚かされます。
また、関東大震災の日には、病気で入院中の妻を心配し、息子に病院まで迎えに行かせた後、こんなことがあったそうです。
「父は門の前を行ったり来たりして母の帰りを待ちわびていたが、私達の姿を見るや『やァ、よかった、よかった』と喜んでくれた。早速座敷に用意した布団に寝かせたが、驚いたことには、その上に背の高い頑丈な料理用のテーブルを跨(また)がせてあった。これは万一大きな揺り返しが来た時、上から大きな器物が落ちることを案じての心配りであった」。
妻への愛情や気働きが感じられる、何とも微笑ましいエピソードです。
逝去の翌年に建てられ、戦後再建された2代目の胸像。
郷里で時代の新しい風を感じ、信念を貫いた博士に思いを馳せる
北里家で代々受け継がれる家訓や家風はあるのでしょうか。英郎さんに問うと、こんな答えが返ってきました。
「特に書き残された家訓はありませんが、振り返ってみると、長いものに巻かれない、自分の信念を貫くところは受け継いでいるのかもしれません」
新紙幣の「顔」に選ばれた影響は大きく、新紙幣発行直後のお盆休みには来館者が1日1000人を超えた日もあったとのこと。しかし、お札ブームはいずれ去るものと冷静に語る英郎さんは、すでに次を見据えています。
「せっかく文庫に貴重な書物がたくさんあるので、今後はデジタル化して今の子どもにも読めるようにしたいです。また、僕はたまたま大学で微生物を教えていたので、顕微鏡で実際に破傷風菌を見る教室を夏休みに開催するなど、アイディアはいろいろあります。この景色を眺めつつ明治維新後の新しい風を感じ、信念を貫いた柴三郎に思いを馳せ、将来、科学者や医学者になる子が一人でも増えたらうれしいですね」
1916(大正5)年、博士が郷里の子どもたちのために建てた木造洋風建築の北里文庫。当時、熊本県立図書館に次ぐ蔵書数を誇った。
2024年4月から公開が始まった書庫。明治・大正・昭和初期の貴重な蔵書を展示。
北里文庫の落成式に柴三郎・乕(とら)夫妻が植樹した夫婦(めおと)杉。寄り添うように立っている。
北里柴三郎記念館住所:熊本県阿蘇郡小国町北里3199
TEL:0967(46)5466
入館料:大人600円、高校生450円、小中学生350円、幼児無料
開館時間:9時30分~16時30分(最終入館は16時) 年中無休(年末年始除く)
(次回に続く。
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