骨折から自力で復帰。体は意志で動く。
市丸さんの24時間は絵を中心に刻まれ、それ以外の生活は自由気まま。驚いたのは、意欲が念力のごとく体を動かしてしまうことでした。昨年10月、大腿骨を骨折し手術を受けましたが、「リハビリは嫌い」とさっさと退院。
「なんとしても絵を描きたい、と思ってごそごそ動いてたら2か月で歩ける ようになっちゃった。杖? そんなものはつきません、つきたくないですから。意志があれば体はついてきます」
胡粉を溶いた小皿を手に、市丸さんが椅子からひょいと立ち上がりました。どこにも手をつかず、脚力だけで軽々とーー。それはまるで無意識のスクワット。60年以上、絵を描くために繰り返し続けてきた何げない動作が、全身運動そのものだったのです。
完成に2~3か月を要する大作を立って描き続けるだけで足腰は鍛えられる。この1枚で何をどう訴えるか、創作に伴う産みの苦しみは脳を働かせる。道を究め続ける生き方こそが養生なのだ、と市丸さんは教えてくれました。
市丸節子さんの「生涯現役」養生術
1、買い物は1人で歩いて往復30分2、疲れたら30分眠る。起きたらまた描く3、食事は腹八分目。食べ物の贅沢はしない 【歌舞伎座公演プログラムを飾った市丸さんの絵】
2015年松竹創業120周年「六月大歌舞伎」プログラムの表紙になった『みなづきの花』。市丸さんの絵は身近なところでも残り続ける。 市丸節子(いちまる・せつこ)さん
1928年佐賀県生まれ。62年伊東深水氏に師事。10年間、鎌倉のアトリエで氏の創作活動を支え、最後の弟子として死に水をとった。
伊東氏の逝去後、73年より奥田元宋氏に師事。 65年日展初入選、68年日春展初入選、82年日展特選。2018年福生市役所に華道家・安達曈子氏を描いた『椿』を寄贈。
写真の絵は市丸さんの作品『白い椿』(撮影場所・公立福生病院)。
撮影/鍋島徳恭 ヘア&メイク/小出冨久 スタイリング/高橋尚美 取材・文/浅原須美
「家庭画報」2018年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。