4.「臓器の記憶」が体の健康を左右
山田 老いても誰かの役に立ち、幸福寿命を全うするにはやはり肉体の健康が欠かせませんね。
伊藤 ええ。それは誰もが願うことです。そのために私は“臓器の記憶”を活用することを考えています。
山田 臓器に記憶できる能力があるのですか。
伊藤 日々の生活の中で、体にいいことや悪いことを行うと、それが一時的であっても、臓器の機能に比較的長く影響を及ぼしていく現象のことです。
高血圧や糖尿病など生活習慣病と呼ばれるものは習慣的にあることを繰り返してしまうわけですが、臓器は同じ刺激が来ても同じようには反応しなくなり、いい方向や悪い方向に進みます。これは臓器の記憶と呼べるのではないかと考えています。
山田 たしかに、健康維持のためには無視できない現象ですね。
伊藤 ええ。我々の健康を効率的に常によい状態にもっていくには、いい記憶をつくっていくことが大切ですし、逆に悪い記憶が積み重なると後から消せなくなるので、早めに消す方法が必要になります。
私は肥満に起因するメタボリック症候群から引き起こされる負の連鎖を「メタボリックドミノ」として提唱しましたが、まさに「メタボリックドミノ」は、悪い臓器の記憶の蓄積で起こります。
山田 面白いですね。そこにはどのようなメカニズムが働いているのですか。
伊藤 メカニズム的には今注目されている遺伝子の「エピゲノム変化(生活習慣などの影響により後天的に遺伝子の働き方が変化すること)」が働いています。
遺伝と生活習慣のどちらが大事かということがよく議論されますが、この2つの要素はきれいに切り離せるものではありません。エピゲノム変化を通じて遺伝子の力を引き出す生活習慣が重要なのです。
遺伝子の力はまだまだ期待値が大きく、我々が使いきっていない部分が多いので、健康によい生活をして臓器のいい記憶をつくることで遺伝子がどんどん使われていくことが健康長寿のためには大切だと思っています。
山田 臓器のいい記憶によって遺伝子のスイッチを押してやるわけですね。